A*H

R→←27←C 学パラ!(SSSを地味にUP予定。・・・だらだら続けてすみません)

*甘い、あまい・・・*

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>>13,14,15,16,17



13.  喜劇のような告白劇

 

「いい加減に起きろ。・・・今すぐ起きねぇとこのまま喰っちまうぞコラ」
「は?!」
不穏な言葉に反射で飛び起きてみれば、なんとなく吹っ切れたようなコロネロの顔が間近に合って驚いた。
「な、ななな・・・」
「日本語くらいまともに喋れ。それとも・・・まだ熱あんのか?」
こつんと額を当てられて、熱を測られる。幼馴染とはいえ正直こんなに近くでコロネロの顔を凝視したことは無い。
アップにも耐えられる顔ってこんなのかなぁと一人どうでもいいことを考えながら、やたらめったら元気の良い心臓の音が聞こえてないか心配になってきた。
だって昨日の今日だ。記憶は途中でぶっつり途切れてるけど、コロネロに何度も・・・キスされた。
意識しろってどういう意味なんだろう?
あんなに離れかけていた距離は今ではこんなに近くて、でも俺はその急激な変化についていけない。
ただ居た堪れなくて恥ずかしくて、どうしていいのかわからなくて何だか泣きそうになる。
「・・・ツナ・・・お前、誘ってんのかコラ」
「・・・は?」
どうしよう。コロネロが壊れてしまったかもしれない。
がしりと首の後ろを大きな手の平で固定されて、ぐぐっと近づいてくるのはやたらと綺麗な顔。
「ちょ、ちょっと、待ってコロネロ!こんな・・・いきなり・・・!」
「今のはお前が悪い」
「そんなの知らないよ!」
触れ合うギリギリで手の平でコロネロの顔を押し返したりしてると、下の階から母さんの声が響いた。
「ツナー?まだ寝てるの?コロちゃんも遅刻するわよー!」
「え?・・・うわ、もうこんな時間!?」
母さんの声で力を失ったコロネロを何とか押しのけて時計を見れば、走ってギリギリ間に合うか間に合わないかの境目だった。
もちろん、俺の足で・・・ってことだから、俊足のコロネロに掛かればまだ余裕の時間帯なんだろう。慌てて着替えだした俺の背中を後ろからじっと眺めていて、なんとなく居た堪れなくなりながらもいつもより素早く制服に着替える。
「・・・・白いし細せぇな。成長してんのか?」
「ちょっとは成長してるよ失礼な・・!もう、コロネロさっきから・・・昨日から、何か変。あ、ああんなことまでして、一体どうしたっていうの」
気にはなるけど、とりあえず今は時間が無い。
質問を投げかけるだけ投げて、適当にカバンに荷物を放り込んで部屋を飛び出す。
「朝ご飯は?」
「いらない!時間ないから、行って来ます・・・!」
「はいはい気をつけてね」
言われた側からこけた。慌てて靴を履いて出たから玄関先で躓いたんだけど、腕を引かれて倒れ込むことはなかった。
「急ぐぞ。取り合えず付いて来い」
「う、うん・・・」
取り落とした俺のカバンを拾ったコロネロは、腕から手の平へ掴む場所を変えて・・・俺の手を引いたまま勢い良く走り出した。
「・・ッ・・はぁ、・・・は、・・・はぁっ・・・!」
「・・・・・・・平気かコラ」
間に合うことには間に合った。予鈴の鳴る下駄箱でよれよれになりながらも履き替えて、半ば抱えられるように教室まで連れて行かれる。
コロネロとは別のクラスだ。わざわざ俺のクラスの前まで連れてきてくれたのはありがたいけど、早く行かないと折角間に合ったのに遅刻になってしまうだろう。
「も、大丈夫・・・、だから、コロ・・・いって、いいよ・・・?」
「・・・・見上げんなコラいちいち反応するな俺!・・・クソッ!」
「うぁ?!」
「しばらく被ってろ、コラ!せめて一限目は取るんじゃねぇぞ!?」
何が気に喰わなかったのか悪態をついたコロネロは、いきなりカバンから取り出したスポーツタオルを俺の頭に被せて走り去っていった。向かった先がコロネロの教室の方じゃなくてトイレの方だったのは、もしかして今まで行きたいのを我慢してたりしたのかな。
去り際の言葉がいまいちよくわからないけれど、被せてくれたタオルは少しありがたかった。
朝からも鏡をしっかり見る時間なんて無かったからわからないけど、もしかしたら、結構目立つ傷か痣でも残ってるのかもしれない。
言われた通りタオルを頭にかけたまま教室に入れば、中に居たクラスメイトから一斉に向けられた視線に驚いた。
学校内でどれだけうわさが広まっても、なぜかクラスの中はいつも通りで平和だったのに。
やっぱり騒ぎは大きくなってしまっているのかと不安になりながら席へと向かうと、並んだ机を蹴り飛ばす勢いで走ってくるリボーンが居た。
「ツナ!」
「あ、・・・おはよう」
取るなと言われたタオルが早速奪われてしまったけれど、リボーンになら構わないかと考える。
まだちょっと整わない息で苦しいけれど、何とか笑ってみせることはできた。
「・・・っ大丈夫、なのか?」
「え?何が?あ、熱?大丈夫だよ、熱は下がったし、これは、ちょっと・・・走って来たからで」
「知ってる。見ていたからな」
「見てたって・・・あぁ」
教室の窓からグラウンドを挟んで正門まで見晴らしよく見える。手を掴まれて殆ど引き摺られるように走ってきた俺の姿も見ていたんだろうか。ちょっと恥ずかしい。
「そうじゃねーぞ。アイツと、仲直りしたのか?」
「あ・・・あぁ・・・」
どうなんだろう。いつも通りの幼馴染に戻ったような、なんだか知らない別人に変わってしまったような。
許して貰えたと考えてもいいだろう。俺のことが嫌いなら、あんなことはしない。・・・と思う。
まさか嫌がらせで男同士でキスなんてしないだろう。・・・なんて考えていたら、思い出して一気に顔が赤くなった。
「取り合えず・・・もう怒ってはいない・・・みたいだよ」
「・・・ツナ?」
誤魔化すように、真っ直ぐ見つめてくるリボーンの視線から逃げれば、タイミングよく一時間目の先生が入ってきて教室内がざわめいた。各自それぞれ慌てて席に戻るのに、リボーンはなかなか俺の前から離れようとしない。
「リボーン?」
「・・・あぁ」
起立、礼と挨拶が済み、授業も半ば進んだ頃。
電源を切り忘れた携帯がポケットの中で軽く揺れた。マナーにしていたお陰で誰にも気付かれていないみたいだけれど気になってこっそり開いてみる。
【コロネロと何かあったのか?】
驚いて、送り主に視線を向ければ、前から微かに心配そうなリボーンの視線と目が合った。
ずっとずっと後ろから眺めているだけだったのに、そのリボーンが俺の方を向いていることがとても新鮮で。
「・・・・・【キスされた】・・・なんて、信じるかなぁ・・・?」
つい出来心で、 普通に返事してしまった。
送ってからちょっと失敗したかもしれないと考えても遅い。案の定、速攻で帰って来た返事は。
【好きなのか】
誰が、誰を?俺が、コロネロを?好きは好きだよ。友達として、幼馴染として、兄弟として、家族として。
初恋っていつだっけの俺だから、本当の恋愛と愛情の違いさえわかっていないんだろうけれど。
誰かを想ってどきどきして、嬉しくて、でも凄く切なくて、苦しい。でも、止められないこの気持ちはきっと・・・。
「・・・・俺が・・・【俺が好きなのはリボーンだよ】・・・・・・って、あぁ!!」
「どうした沢田?」
「あ、いや、あの・・・」
流れでそのまま送信ボタンを押してしまった。慌てて押した中止ボタンは間に合わずに、画面には『送信しました』の画面が表示されている。
「先生」
教室内に響いた声に一番驚いたのは俺だろう。リボーンは今のメールを受け取っただろうか。視線が向けられない。
「おう、どうした」
「実は沢田君は朝から病院に行かなければならなかったんです。俺が付き添いますんで構いませんか」
「あ?・・・あぁ、そうだな。構わんから行って来い」
「ありがとうございます」
まるで模範のような教師への態度。
仲良くなった今では違和感しか感じないけれど、近寄ってくる足音がすぐ隣で止まる。
「ツナ・・・大丈夫か?」
「え、っと・・・その」
「取り合えず立て。・・・立てねぇなら、抱えて行ってやるが?」
「・・・大丈夫っ!」
後半に囁かれた言葉はきっと俺にしか聞こえていないんだろう。
どこも悪くなんてないけれど、立ち上がった俺はリボーンに肩を抱えられるように引き寄せられて、静まり返った教室を後にした。

 




14. 溢れ出す想い


病院に行くなんて口実だ。そんな予定は元々無かった。
リボーンに先導されるままに連れて来られたのは屋上だ。いつもは鍵が掛かってるから外へは出られないけれど、これも生徒会長の特権なのか難なく鍵を開けて連れ出される。
「リボーン・・・あの、その・・・」
教室を出てから、リボーンは一言も話さない。
黙々と歩いて連れて来られたけれど、ちらりと見上げた顔は何かを考えているような・・・けれど、読ませないほど完璧な無表情で俺の方を見ようともしないから、もしかして怒らせてしまったのかと思って、恐る恐る口を開く。
「・・・リボーン、ごめんね、あの」
「ツナ」
「ん?」
「本気か」
「・・・・・えっと」
正直、本人を目の前になんて言えばいいのかわからない。
これはある意味告白シーンなんだろうか。バカみたいな流れで伝えてしまった気持ちだけれど、正面切って言い直せるほど勇気があるわけじゃない。
だって俺はダメツナだし、何にも出来ないつまらない男だし。
ついさっきまで友達として普通に話していたのに。 こんな場面になった途端頭の中が真っ白になって何も言葉が浮かばない。
何か言わないとと焦れば焦るほど何を聞かれているのかもわからなくなって、俺は俯いたまま自分のつま先しか眺めることが出来なかった。
「コロネロとキスしたって?」
「あ、ええとそれは・・・それは、うん。たぶん、冗談だ、よ」
会話の切り口をまたとんでもないところに移動させられた。
正直コロネロがなんで俺にあんなことをしたのか。朝からのあの態度とか今でもよくわからないんだけど。
「冗談・・・冗談でするか?お前ら、男同士だろ」
「・・・・っ!」
ハッと鼻で笑われてようやく自覚する。
今更だけど俺もコロネロもリボーンも男なんだ。普通そんなところには好きだとかそんな関係は生まれるはずがなくて、殆どの人が気持ち悪いと思う部類の世界になるんだろう。
リボーンだって、こんな俺に・・・男に好かれたって気持ち悪いだけだよね。
「あの、ごめんね・・・変なメール送ってさ!冗談だから、ね、そろそろ教室、戻らなきゃ・・・」
なんとか誤魔化したくて、嫌われたくなくて、慌てて口を開くけれど。
「嘘が下手だな。ツナ、あのメールは本気だろう。本気で俺が好きなのか」
怖くて顔が上げられない。さっきからじっと俺を見ているリボーンの視線は感じるけれど、そこに浮かぶ表情が嫌悪とか怒りだったらって思うとどうしても見つめ返す勇気が出なかった。
「俺・・・行かなきゃ」
「だめだ」
視線避けるように彷徨わせて扉を振り返れば、後ろから腕を強く引かれる。
「リボ・・・放して」
「答えるまで放してやらねーぞ。・・・ツナ、言え」
じりじりと掴まれた腕から熱が移って来る。もう六月なのに、随分と涼しい風に冷やされた体温はリボーンの熱を貰ってさっきから上がりっぱなしだ。
熱の発生源は掴まれた腕。そして、煩いくらい鳴り響く胸の鼓動。
恥ずかしくて苦しくて、どうにかなってしまいそうだ。
身じろいでも放してくれる気配はない。本当に、俺が正直に答えるまで放す気はないんだろう。
嫌われたくなかったけれど。もし、嫌悪の浮かんだ目で見られるのを想像したら、とてつもなく苦しいけれど。
今のこの時間も、息が出来ないほどに苦しくて。
もう知られてしまった気持ちだし、これで嫌われるならきっぱり突き放して貰った方がいい。
もし嫌われたとしても、俺がリボーンを好きな気持ちはきっと変わらない・・・から。
「ツナ」
「あぁもう、そうだよ!こんなの男同士で、気持ち悪いだろ?だから、もう俺には・・・!」
構わないでくれと、言い逃げで逃げようとした俺の顔を固定するように上に向けて。リボーンは。
「本気だな・・・?」
期待と、不安と。入り混じったような、複雑な表情。少し目元が赤くて、初めて見る泣きそうな顔で、それでも嬉しげに俺の頬を撫でるから。
「・・・俺は、リボーンが好き。・・・好きだよ」
ぽろりと、飾ることも出来ないほど素直な本音が零れ出た。途端、震えるリボーンの身体。
俺の頬を挟んだままのリボーンの手に触れて、近づいた顔をそっと寄せる。
「好き・・・」
胸の奥深く。自分でも知らなかったような底から溢れるように湧き出す気持ちに突き動かされて、目の前のやたらと綺麗な顔に自ら背伸びした俺は、衝動のままその薄い唇を奪ってしまった。
触れた唇は少しだけ冷たくて・・・そして何故かとても、甘いような気がした。

 




15. 眩暈


あの日、あの後。結局どうなったかと言うと、実は記憶が曖昧だ。
俺のこんな気持ち、迷惑じゃ無いのかもしれないって思った瞬間、嬉しくなって止められなくなって、リボーンにしがみ付いてた。キスはまあ・・・勢い余ってやってしまったようなものだ。今思い出しても恥ずかしい。
「・・・何百面相してんだ」
「あー・・・えへへ」
あの後再びブツンと途切れた意識は、今度はなんと病院のベッドの上で目覚めたから驚いた。
診断は情けないもので、単純な栄養失調。ここ数日高熱とかストレスで減っていた食欲のせいで、ほとんど限界まで体力が落ちていたらしい。
そんな身体で全力疾走したものだから、目が回るのも当たり前だと怒られてしまった。
こんな身体でいきなり食事しても吐くだけだってことで、あれからずっと点滴を打ってもらっている。
確かに、まだ身体を起こすのは少し辛い。けれど、眠い訳じゃないから、側に居てくれるリボーンの姿を見つめて、見つめ返されて嬉しくなって、ちょっとだけ恥ずかしくて、でもやっぱり嬉しいから笑ってしまうんだ。
「ツナってそんな風に笑うんだな」
「え?な、何・・・今更」
「困ったようにとか寂しそうとか泣きそうだとか。あとはバカ笑いか。それぐらいしか見たことねーからな」
「・・・そうだっけ?」
思い返してみても、自分ではあんまりよくわからない。
でも言われてみれば最近は辛いこととか苦しいことが多かったから・・・仕方なかったのかもしれないけれど。
「あらリボーンくん、まだ居てくれたの?」
「いえ、そろそろ帰ります」
「ツナが退院出来るなら、一緒に食事でもどうかと思ったんだけど・・・」
ちなみに、腹の減りすぎで目を回した俺を病院まで運んで更に付き添ってくれたのはリボーン。
ある意味サボリの口実は本当のことになったみたいだ。
運ばれた病院へ駆けつけてきた母さんとリボーンは改めて対面して自己紹介したらしく、俺が目を覚ました時にはもう仲良く喋っていた。・・・ちょっとむっとしたのは秘密だけれど。
「また誘って下さい」
「えぇ、もちろんよ!」
母さんもリボーン相手に年甲斐もなくはしゃぐから、やっぱりちょっとむっとする。
その間に看護師さんに声を掛けられた母さんが呼ばれて居なくなったと同時に、我慢していたのかくくくと押し殺したような声でリボーンが笑う。
「ツナ、また明日来てやるから拗ねるな」
「拗ねてなんか・・・、!」
「・・・早く元気になれよ」
振り降りて来た触れるだけの軽い軽いキス。
それだけで不満はあっさり消えて、同時に押し寄せるのは恥ずかしいと嬉しい気持ち。持て余す感情に眩暈がしそうだ。
ついでとばかりにくしゃりと頭を撫でられる手のひらの優しさが切なくて、俺はただ小さくうんと頷いた。
カーテンの向こうで母さんと看護師さんに声を掛けて出て行くリボーンの背中をそっと隙間から眺めて、湧き上がる何かに顔が熱く火照ってくる。
「あら?・・・熱、ぶり返しちゃったかしら?」
「・・・・かも」
結局また知恵熱を出して唸るハメになってしまったけれども、心の中はとても暖かくて心地いい。
目まぐるしい感情の起伏に疲れ果てて、そのまま深く眠ってしまった夜。
暖かくて大きな手の平が、優しく俺の頭を撫でる夢を見た。

 




16. 真っ直ぐな気持ち


「ツナ、忘れ物はない?」
「ん、たぶん大丈夫」
入院と言っても様子見も兼ねての軽いものだったので、翌日の昼頃には退院することが出来た。
朝食はおかゆだったけどきちんと食べられた。むしろそれだけじゃちょっと物足りない感じでおかわりがあるか聞いてしまったほどだ。食欲があるのは元気になってきた証拠だって看護師さんに笑われたけど、だからと言っていきなりがっついても駄目って怒られてしまった。
帰り道に母さんに夕食はせめておかず付きの普通のご飯が食べたいって言ったら、ビーフシチューとかどう?とか言われてしまった。シチューにご飯。それはいいとして、もうそろそろ夏だって言うのに、シチューはちょっと暑苦しいと思う。
それより、ずっと気になっていることがある。
「ねえ母さん、昨日夜誰か来た?」
「あらどうして?」
「昨日・・・寝てるところに誰か来た様な気がするんだけど」
「さぁ・・・、夜勤の先生方じゃないの?」
母さんとか女の人の手じゃなかったから多分男だとは思う。でも知らない人というよりはもっとよく知っている感触で、たとえばリボーンとか・・・コロネロとか。
「・・・男の人って、二人とも同じ歳だっての」
ぽつりと口から零れ出た言葉は運良く母さんの耳には入らなかったみたいだ。
でも、大人の男の人って感じてしまうほど、二人の手は大きい。きっと大人になるにつれてもっともっと身長も伸びるんだろう。コロネロはそういえば足のサイズもでかかった。リボーンはどうだろう。そこまでは知らない。
リボーンについて。俺が知っていることなんてほんの少しだ。
バカみたいな告白しておいて、それでもリボーンは俺を否定しないでくれた。
男同士って、告白されたら普通は驚く。最悪は嫌われる。でも多分それが普通。
でもリボーンは俺を・・・あれ?
「・・・結局、どうなったんっだっけ・・・」
キスもした。唇にしたのは俺からだったけれど、病室でリボーンは俺の額にしてくれた。でもそれは告白したことへの返事にはならない。
ものすごく今更だけれど、俺はリボーンの答えを聞いていなかったことに気が付いた。
そもそも、リボーンは俺のことをどう思っているんだろうか。同じように好きだと思ってくれているんだろうか。
だったらあの時、キスで触れる場所は唇でも良かったんじゃないかなんて思ってしまう。リボーンに・・・唇にキスされたいだなんて、おこがましいけど本心だから仕方ない。
唇に、キス。触れて、思い出す。この唇に最初に触れたのは、リボーンじゃなくて。
「あぁそうだわ、言い忘れていたわね。今日のお夕飯からコロちゃんも一緒に食べるって連絡あったわよ。あとリボーン君も来るって」
「へー・・・・へ、え?!」
「あの二人が来るなら沢山食べそうねー。今日はやっぱりシチューじゃなくてもいいかしら?」
ひらひらと携帯を振りながら振り返る母親に、固まっていた意識がようやく戻る。
「それは、そんなの何でも構わないけど!なんで母さんに連絡が行くんだよ?!」
「ツー君にメールが届かないからでしょう?病院ではマナーだけど、今も電源切ったままなんじゃない?」
「あ」
そこでようやく携帯の存在を思い出した。病院に居たから電源切りっぱなしで忘れてたんだ。
慌てて携帯を開けば、二人から幾つかの不在着信と二、三通のメールが届いている。
「・・・『今日晩飯食いに行く』ってコロネロ、相変わらず飾らないやつ・・・」
コロネロはいつだって直球で、変に格好付けたりしない分、それがまた凄くカッコいいすごい男だ。口下手だけど、だからこそ態度で示す。真っ直ぐな心のままに行動するから、本心をあまり隠さないせいで喧嘩も多いみたいだけど・・・。
「・・・真っ直ぐな心・・・気持ち」
コロネロはどうして、俺にキスなんてしたんだろう・・・なんて。
そんなの、考えなくても分かってる。いいや俺はきっと、ずっと前からわかってた。
でも、居心地のいい幼馴染から離れたくなくて。俺がもしコロネロの気持ちを理解して、それを拒否したら?
離れてしまうのが怖いから・・・でも、俺は今、そんな風に誤魔化されているようなリボーンの態度にやきもきしている。
あぁ、なんて自分勝手な人間なんだろう。
コロネロの気持ちは気付かないフリをしたまま、リボーンのはっきりした答えが欲しいだなんて。
「・・・男三人で、なんでこうなっちゃうかな」
俺はリボーンが好き。リボーンは、どうなんだろう。たぶん、嫌われてはいないと思うけど。
そして、コロネロは。
俺がリボーンを好きなように、きっと・・・・。

 




17. 晩御飯

家に着くなりぼんやりと考え込んでしまった俺を置いて、どうやら母さんは買い物に出かけたらしい。
気付いた時には両手一杯の袋と、更に母さんより大きい袋を提げたリボーンを伴って帰ってきた時だから驚いた。
昨日ぶりといっても、1日時間が経ったわけじゃない。それでもなんとなく照れくさくて嬉しくて、家の中へ招いたのは一時間ほど前か。
「・・・あの、リボーン」
「なんだ」
母さんと並んで台所に立つのも家では珍しい光景じゃない。
でも、息子が母親と一緒に晩ご飯の支度だなんて、そんなにも珍しい光景なんだろうか。
「なんだ・・・って、その、気になるからあっちでコロネロとゲームでもしてろよ」
台所の椅子に座ったまま、じーっと見られている視線を感じて正直居た堪れなくなる。
手元を覗き込んで来る訳じゃないから、作り方を見たいって訳でもないだろう。
「邪魔したなら悪かった。だがこんな風に誰かが夕食を作る姿を見るのは久しぶりでな」
「あらそうなの?リボーン君、ご両親は?」
「滅多に帰ってきません。殆ど一人暮らしみたいなものです」
それはちょっと気になっていたことだった。ある意味、リボーンもコロネロと同じように家では一人きりなんだ。
「あ、そういえば俺、リボーンの家とか知らない・・・」
「興味あるか?なら、また遊びに来い」
「・・・うん」
知らないのは家だけじゃない。俺が知っているのは、同じ学校に通うなら知っていて当たり前のようなことばかり。
仲がいい友達はもちろん、リボーンに憧れてる女子たちよりも、俺はぜんぜんリボーンを知らなかった。
家族構成とか、好きなもの、嫌いなもの、誕生日とか・・・あとは、リボーンが本当は俺をどう思っているのかということ。どういう流れで聞けばいいのかわからなくて困る。
告白してからまだそんなに経っていないのに、リボーンは相変わらずいつもと変わらない様子で。
意識しているのは俺だけなのかと思うと、やっぱりちょっと哀しい。
「風呂、ありがたく頂いたぜ奈々。ツナ、水」
「あ、うん」
そこへ、髪もまだ濡れたままの半裸のコロネロが現れた。部活から帰ってきてそのまま風呂場へ行ったんだった。
うちで入ることは珍しくないコロネロだから、俺も母さんも慣れた様子で冷たい水や洗いたてのタオルやらコロネロに差し出したりしていたのだが。
「いつもこうなのか?」
「こうって?」
母さんがコロネロに渡したタオルをそのまま渡されて、いつものようにコロネロの髪を拭きながら、首をかしげる。
すると、さっきまで楽しそうだったリボーンの雰囲気が少し重たくなった・・・ように感じた。
「な、なんなら、リボーンも入ってきたらいいよ!生徒会疲れたんだろ?着替えは・・・」
「別に気にするな。風呂はいい。晩飯ご馳走になったら帰るからな。それよりも腹が減ったぞ」
「そう、そうだよね・・・うん、じゃあもう少しだから待ってて」
一瞬ぴりっと張り詰めたような空気を感じたけれど、俺の方を向いてくれたリボーンはいつもと変わらなかった。
俺は慌てて準備に戻る。
そんな様子を母さんがくすくすとおかしそうに笑い、からかわれて、なんとか誤魔化すのに戸惑ってしまった。
その後ろで、リボーンとコロネロの視線がこちらに向けられていることを気付かないほどに。
「はい、召し上がれ!」
「いただきます」
ちょっと暑くなってきたからということで、冷たいぶっかけそうめんと、山盛りの冷やし豚しゃぶサラダ。鶏のから揚げに小鉢にはおひたしとか漬け物とか冷奴とか、でも冷たいものばかりでもだめだからと、煮物とアジのすり流し汁。
それに、二人はご飯大盛り。良く食べられるなと思ったけれど、成長期で身体の大きな二人にはこれでもまだ足りないのかもしれない。・・・そう思ってしまうほど、凄い勢いでなくなっていくからだ。
「・・・どう、かな?」
「あぁ、うまいぞ。コロネロのヤツを殴りたくなるくらいにはな」
「けっ!ちゃっかりツナに弁当作って貰っておきながらよく言うぜ」
「??」
俺と母さんが話が見えないと首をかしげていると、リボーンが笑いながら説明してくれた。
「今年になるまでコロネロと俺は同じクラスだったろ」
「あぁ、そうらしいね」
「・・・まぁ、それでだな。俺と同じような半一人暮らしのコイツが食生活に不便はないっていうもんだからな。俺以上に自炊できないこいつが満足してるってことは何かあるなってずっと聞いてはいたんだが、一切口を割らなかったんだぞ」
ええと、それはどういうことだろう。
その疑問が顔に出ていたんだろう。コロネロをじっと見つめたら、慌てて顔を逸らされた。その頬がちょっと赤いのはどういう理由なんだろうか。
「コロネロ?」
「・・・たくなかった・・」
「え?」
「こいつらに知られたくなかったって言ってんだぞコラ!」
いきなり火がついたみたいに叫んで立ち上がったコロネロにも驚いたけど。
「コロちゃん」
「う、スマン」
横からさりげなく入ってきた母さんの一声で大人しく席に座りなおす。
「知られたくなかったって、でも、どうして?」
幼馴染の家で食べてるからってそれだけでいいんじゃないかと思う。それとも、コロネロは。
「俺が幼馴染だって思われるのは、恥ずかしい?」
「は?そうじゃない!そんなんじゃねーから、ンな顔すんな!ただな・・・」
「ただ?」
そこで、何故か視線が集中したのは俺の隣でわくわくと話を聞いている母さんだ。一人部外者のくせに期待に満ちた顔できらきらしている。
「なあに?母さんには言えない話なの?」
「・・・後で話してやるから今は勘弁しろ、コラ」
「えぇ、なんで?」
それからは、どれだけ聞いても答えてはくれなかった。でも他にも色々会話も弾んだ楽しい時間はあっという間に終わり、食事の片付けも終わったのでリビングに戻ったら、リボーンが居ない。まさかもう帰ってしまうのかと思っていたら。
「さっきツナが片付けしてる時にな。どうせ帰っても一人なら泊まったらいいって奈々さんに言われたんで泊まることにしたんだぞ」
ほかほかの湯上りで出てきたリボーンはいつも固めている髪も水に濡れて顔に落ちていてなんだかものすごく・・・。
「・・・どうした?」
「ひわ・・・っ!お、俺も風呂入ってくる!!」
制服を着ていないリボーンを見るのも新鮮だったけど、それ以上に濡れ髪の威力ってものを思い知った。
ドキドキとうるさい心臓と、隠しきれたか分からない真っ赤に熱い顔。
「俺、本当にリボーンのこと・・・」
改めて自覚するとまた熱があがりそうな気がしたから、俺はそのまま逃げるように風呂場へ飛び込んで水を勢い良く被る。
告白しても普段通りのリボーンだから俺も出来るだけ普通でいようと思ったのに。そろそろ我慢できないかもしれない。
まともに顔さえ見れなくなったらどうしようと考えてるうちに、冷え過ぎた身体に一つくしゃみが零れた。

<<戻 | 続>>

⊂謝⊃

12話過ぎて何処まで続くのか・・・・13話からいきなりテンション上がった感じです。
コロネロが壊れました。・・・いえ、自重しなくなりました。(笑)
この告白劇で次の暴走者は先生ですかね!・・・意外と暴走してくれないですね(笑)
もうそろそろ決着ついてもいいような気がしないでもない。そしてコロネロの出番がない。(笑)

はい、地味にまだ続きます・・・。

 

斎藤千夏* 2010/06/05〜2010/06/13 (13〜17)