*甘い、あまい・・・*
「・・・・ナ、ツナ」
「ぅ・・・ん、・・・ん・・・?」
揺り動かされて沈んでいた意識がゆっくりと覚醒する。
寝苦しく熱い夜が多かった癖に昨夜は少し肌寒いくらいで、朝も引きずった冷気から逃れようと、離れていこうとする心地良い何かに縋りついた。
「寝かせてやりてぇのは山々だがな。そろそろ起きねえとまた走って学校に行くハメになるぞ」
「・・・は?」
頭の上から、聞こえるはずが無い声が聞こえた。
なんだか最近似たような状況でコロネロに起こされた気がするが、今側に居るのは間違えようもなく。
「チャオ、ツナ。ぐっすり眠れたか?」
「・・・・うん、おは、よ」
距離にして僅か20センチ程度。これはどうやったって友達の距離じゃないと思うし、何より俺の頭の下にはリボーンの腕。しかも、俺がすがり付いていた熱の正体はリボーンの身体で・・・。
「・・・っ!!?」
「おー、意外と寝起きは良いんだな。着替えて下に行くぞ。奈々さんが呼んでる」
「・・・・ぁ、・・・っ」
何か返事をしないと、と口を開いても言葉が何も出てこない。そんな俺に構わず起き上がったリボーンが豪快に寝巻き・・・コロネロの着替えを借りたらしい・・・を脱いだから、もう色々居た堪れなくてハンガーごと制服を引っつかんで部屋を飛び出す。
「オイ、ツナ?」
「俺、ちょっとシャワー浴びてから着替えるから!先ご飯食べてて!!」
逃げたような俺を見送ったリボーンがどんな顔をしていたのか、見たくても見れない。同じ男でも、なんだかリボーンの裸は見ちゃいけない気がする。あぁもう、乙女かよ俺!
そもそも、なんでいきなりこんな寝起きになったのかと、ようやく回りだした頭でたった昨日の夜のことを思い出す。
確かに、昨夜も散々だった。
寝るまではやれサボってた分の勉強だなんだってリボーン式スパルタ授業が行われてる横で、暢気にゲームしてたコロネロにちょっとした殺意が芽生えたけど、結局勉強は自分で頑張るしかないって言うのもその通りなので仕方なく机に向き合った。
もう夏休みまであと一ヶ月ちょっと。試験は落としたけど、夏休み前の最後のお情け追試で80点台取ればまぁ夏休みの強化合宿は免除してくれるって話らしい。ちなみに、この話を先生と付けてくれたのはリボーンだと後から聞いた。
俺としては勿論夏休みの補講なんて行きたくないけど リボーンからすれば、不特定多数の授業なんて俺には時間の無駄らしくて、学校の補講が決定しなくても、夏休みはみっちりリボーンに叩き込まれる予定た。逃げ道は無い。
で、そこまではまだ平和だった。俺の頭の中以外はとても。
11時を過ぎ、そろそろ頭が重たくなってきた俺に合わせて、寝るかと開放してくれたリボーン。
力尽きてそのまま床に転がったところで、真上にフトンを落とされた。勿論、いつもこのフトンを使ってるコロネロに。
だけど問題はここからで、誰がどうやって何処で寝るかってことでちょっとした喧嘩になったほどだ。
リボーンとコロネロの主張は、お互い二人では寝たくない。でも、ベッドは狭い。だから俺がどっちかと一緒にフトンに寝るってことになったところまでは覚えているけれど、殴り合いまで始めてしまった二人を尻目に、眠すぎて意識が飛んだんだった。
「・・・そういや、朝からコロネロ見てない・・・」
リボーンの綺麗な顔に痣はなかったけど、着替えの途中で見えたわき腹にしっかり拳の痣が残ってた。
コロネロは顔殴られてたような気がするけど、もしかしてあのまま行ったのか?
「あら、今日は早いのねツナ。おはよう。コロちゃんならもう学校よ。部活ですって」
「あ、うんおはよう・・・だろうと思った」
「朝ご飯食べたらお弁当の用意お願いね?材料は準備してるから」
「・・・はあい」
昨日のリボーンの話に心打たれたか何なのか、時間があるときはうちで食事するといいと母さんが勝手に宣言してしまった。もちろん、リボーンは嬉しそうに頷いていたけれど、それは勿論昼も含むってことで。
「・・・余計にサボれなくなった・・・」
母さんを味方に付けるなんてずるい。濡れてしおれた髪を適当にタオルで拭いて、一先ずは朝ご飯。リボーンはとっくに終えていて、違和感なく食後のコーヒー片手に新聞を広げているものだから、うちのリビングに馴染みすぎて何だかおかしかった。
「ツナ・・・お前、髪くらい乾かして来いよ」
「あぁ、まぁすぐ乾くよ。乾きやすいし俺の髪」
急いで食べて、取り合えずご馳走様。食器の片付けは母さんが引き受けてくれたので、俺はそのまま弁当の準備をする。
「あ、ツナ。コロちゃんには大きめのおにぎりも一つ追加でお願い」
「ん?朝の?」
「部活の後、お腹空いちゃうんですって。宜しくね」
リクエスト通りラップで包んだおにぎりも含めて、三人分を重箱につめる。結構急いで作ったから、布を巻いて縛る頃でもまだいつもの俺が起きるぐらいの時間だった。
「ツナ、こっち来て座れ」
「ん?」
ちょっと一息つけると腰を落ち着けようとしたら、台所じゃなくてリビングのソファへと座らされた。
そこで、後ろに立ったリボーンがカチリとドライヤーのスイッチを入れる。
「一応お前、病み上がりなんだからな。髪くらいしっかり乾かせ。これ以上休むと夏休み補講決定だぞ」
「・・・うう、そうだよね。ありがとう」
リボーンに髪を梳かれながら乾かして貰うなんてなんて贅沢だろう。ちょっと照れてしまいそうな状況に何とか顔を引き締めていれば、終わったのかドライヤーの音が止まった。
「・・・よし、まだ時間あるな。ツナ、前髪邪魔じゃないのか」
「え?・・・あぁ、そういやしばらく切ってなかったかな」
どうりで最近よく目に刺さると思ってたらと前髪を引っ張っていた俺の顎を、リボーンの手が下からすくい上げる。
ばっちり正面で目が合って、折角繕っていた表情が台無しになるほど一瞬で顔に熱が集中した。
「・・・切ってやる。まぁ、そろえる程度にだが、構わないか?」
「・・・う、うん」
古い新聞を敷いた上に即席でタオルを巻いて、向かい合わせのまま切って貰う。
下を向くと怒られるので仕方なくぎゅうと目を瞑って、ただただ早く終われって願うしかない。
息まで止めるようにじっと耐えていると、はさみが置かれる音が響いた。
「まだ、目閉じてろよ」
切った髪をはたいてくれてるんだろう。 顔に落ちたそれも指先で撫でるように取り払われるけれど、何だかもう心臓が破裂してしまいそうなほどうるさく動悸を上げている。
「リボーン、まだ・・・?」
「もうちょっとだ」
顔に触れる指は離れて、首に巻いたタオルも取り払われる。そろそろかなとちょっとだけ薄目をあけて見れば、ほんのすぐ近くにリボーンの喉があって驚いた。
しゃがんだ体勢の俺の前に膝立ちで、跳ねた髪を弄るように掴んだリボーンはそのまま、微かな音を立てて。
「・・・柔らかくて甘そうだってずっと思ってたんだが、やっぱり甘ぇな」
もう、言葉にならない。
リボーンは本当にどういうつもりなんだろう。リボーンが答えてくれないから、嫌われないように精一杯隠してるつもりの俺の気持ちはきっと、全部筒抜けなんだろうに、どうしてこんなに。
「ツー君、リボーンちゃん。そろそろ時間よー!」
「はい、もう行きます。・・・行くぞ、ツナ」
泣いてしまいそうなギリギリで、それでも俺の手を引くリボーンを振り払えなくて、俺たちは並んで登校したんだ。
19. 好転、そして暗転・・・
「ちゃおっす」
「おっすリボーンはよー。珍しいなギリギリなんて・・・って、誰?」
なんとか走らないで間に合うようには辿り着けたけど、リボーンの歩幅に合わせたらやっぱり少し息が上がる。
これでもリボーンなりにゆっくり歩いてくれたんだってことは分かってるつもりだけど、脚の長さが違い過ぎてどうやってもリボーンの一歩が俺の二歩になるから追いつくのも必死だったんだ。
「・・・誰って、沢田・・・だけど・・・」
リボーンに手を引っ張られたまま教室まで来たものだから、クラスメイトの視線が集中している。あぁ、これもなんだか見に覚えがあるけれど、なぜかみんな驚いたような顔をして硬直したまま動かない。
「・・・え、」
どこか変なんだろうか。漂う変な空気に、ようやく近くに立ったままのリボーンを見上げた。
やけに視界が明るいなと思って、やっと気付く。
「あ、前髪・・・!リボーン、どれだけ切ったんだよ!?」
「お前止めねぇからな。従順すぎてどうしてやろうかと思ったぞ。・・・それも別に似合ってねー訳じゃねえ。十分可愛いから心配すんな」
「か・・・・」
可愛い。男の俺が言われて喜ぶとか照れる言葉じゃないと思う。けど、朝からの・・・いや、昨日からの続きで簡単に火が付くようになってしまった俺の顔は、またきっと真っ赤に染まってるんだろう。
男が可愛いとか言われて黙ってるなんて変だと思いつつも、続けて言葉が出て来ない。動揺でぱくぱく口を動かしていると、後ろから勢い良くドアが開いた。
「ツナ!無事か!?」
「あ、コロネロ・・・え?無事って何が・・・?」
一気に緊張がほぐれる幼馴染の声にほっとして、呼ばれるままに教室の入り口まで戻る。と、思い出して弁当の包みを開こうと思えば、予測していたらしいリボーンが俺の上からコロネロに放り投げた。
「てめ、投げんな!」
「もう時間もねーからな。とっとと教室戻って食え」
「・・ちっ!覚えてろよコラ!」
「忘れておこう」
「今度はぜってー顔殴る!ツナ、また昼な!」
「う、うん」
しっかり見えなかったけど、ほっぺたにでっかいガーゼを貼ってた。あれはもしかしなくとも、後ろでけろりとしているリボーンの拳の跡だろう。平然としてたから、意外と痛くないのかもしれないけど。
コロネロはまるで嵐のように教室の空気を掻きまわして、予鈴の鳴る廊下を自分の教室へと走って戻って行った。
「やっぱりー!」
「えー、本当に?でも、わかる!」
「だよな、おれもそう思ってた」
コロネロの出現で凍ってた教室の中が解けたのか、一気に近寄ってくるクラスメイトに驚いた。
「ツナ君、絶対かわいいって思ってたの!前髪、もったいなかったよ!絶対今の方が似合ってる!」
「そうそう、肌も白くて羨ましいくらい!どうやったらそんなに腰細くなるの?」
「目もでっかいしな。あ、でも変な意味じゃないんだぜ」
「いつもの爆発頭もな。今日はやけにさらさらだよな。どうしたんだ?」
「え、な、何・・・?」
いつもは必要最低限しか会話もしないクラスメイトの急接近にどうしたらいいかわからない。
何がなんだかわからないけど、 とにかく嫌われてるとかそんなんじゃないみたいだ。そもそも、クラスメイトの皆は俺を馬鹿にしたり、からかったりって殆どしない。軽い冗談みたいに言われるときはあったけど、それくらい考えてみたら普通の友達同士でよくやる軽口だ。
女子には腕やら肩やら触られて、男子にも頭を触られようとしたところで、その腕をリボーンが掴んで止めた。
「女子は良いが野郎は触んな」
「えー何だそれ!?ずるくねーかリボーン!!」
「ずるいも何もねーよ。なぁ、ツナ?」
男子が俺を触ろうとする意味も、 意味深に笑うリボーンの笑顔の意味にも、ちょっとパニック気味の俺はなんにも反応できなかった。そうこうしてるうち、担任が教室に入ってくる。
いっつもぼんやり座っているだけの俺の周りに集まった生徒たちにちょっと驚いたみたいだったけど、大したコメントもなしに適当に挨拶と出席を取ったあと普通に授業が始まった。
ちなみに、未だ俺の学力はクラスメイトと同じ場所まで達してない。でも、少しくらいは話を聞くコツみたいなものを覚えたから、リボーンに教わった通りに授業を聞いていれば何となく先生の言いたい意味もわかるような気がする。
とりあえず、ノートの提出は必須なんだ。先生にじゃなくて、リボーンに。
だから、少しでも褒められるように丁寧に、ノートを写していく。
あの俺が、あんなにダメダメで、諦めてばっかりの俺が、こんなにもやっぱりリボーンのお陰なんだ。
成績だって運動だって出来ないのには変わりないのに、なんていったって世界がこんなに明るいとは思わなかった。
「よし、じゃあここまで!お、沢田お前今日暇か」
チャイムが鳴り響いたと同時にそう言った先生に首を傾げれば、今まで絡んでさえ来なかったクラスメイトたちが冷やかすように先生ナンパ禁止ー!とか叫んでいる。何となく恥ずかしくなるけれど、俺が返事をする前に先生は俺を地獄へ突き落としてくれた。
「時間あるなら残れ。放課後、受けられなかったテストの追試やるからな」
20. 拍子抜けするほど
まさか言われて当日に追試だとは思わないから、テスト範囲の復習なんてざっとしかやっていない。
しかも昨日は色々あったせいで中途半端なところで寝てしまったって言うのに!
「こんな状態での80点なんてムリに決まってる!無茶だよ・・・!」
そんな日こそ時間の流れは残酷で、今や俺は追試を受ける他の生徒と一緒にテストが始まるのを待つ時間だ。
どうやらテスト日に受けられなかったのは俺だけじゃないらしい。
それにしても、先生ってば『暇か』って聞いておいて暇じゃなくても受けなきゃ駄目ってことなんじゃないかと思う。
「夏休みまで補習は嫌だな・・・」
いつも使ってない教室だから物凄く違和感感じるし、さっきから妙に人の視線が痛い。
ここにきて教科書めくってるの俺だけってどういうこと?みんなそんなに自信あるわけ?
「ま、取り合えずやってこい。終わり頃迎えに来てやる」
「俺も同じぐらいに部活終わるからな。一緒に帰るぞコラ」
「う、うん・・・」
ちなみに、このテストは今日だけじゃ終わらない。
1日かけてやるテストを放課後少しずつやることになるから、今週はずっと居残り決定ってことだ。
ということは、明日からは準備が出来るって喜んだのもつかの間、1日目がよりにもよって苦手な数学ときた。
ぜんぜん自信はないけど、リボーンのお陰で詰め込めるだけの公式は叩き込まれているはず・・・らしい。応用問題ではまだリボーンの合格をもらった事はないけど、基本的な解き方は何とかできるようになったんだ。
流石にもう一桁の点数を取ることはない・・・と思いたいけれど、がらりと開いたドアから監督の先生が入ってきたので、入れ替わりにリボーンとコロネロが出て行った。
「・・・・ふぅ」
とりあえず、出来るところからやるしかない。
分からないところを悩むより、読み飛ばして分かりそうな問題に手をつけた方が合計得点はあがる、ってリボーンに言われた。それは当たり前だけど、俺は今までそんなことさえ気にしていなかったんだ。
「じゃあ今から50分。始め」
とにかく目の前の問題用紙をひっくり返して、分かるところから順番に埋めていくように努力するしかない。シャーペンを握って紙面に戦いを挑んだ。・・・・そして、終幕。
「ツナ、終わったんだろ。帰るぞコラ」
「・・・あ、コロネロ・・・?」
制服に着替えるのも面倒なのか、それとも着替える時間を惜しんでまで急いで来てくれたのかわからないけれど、帰り支度をする生徒の間からコロネロが顔を出した。
テスト用紙を回収した先生はもういない。俺も慌てて帰り支度をしていたところで、廊下にリボーンも現れたらしい。見なくたってわかる。女子の悲鳴が聞こえるから。
「・・・ったく、無駄に愛想振りまきやがって」
「あはは・・でも、コロネロだって凄い人気じゃないか」
確かにリボーンと比べて愛想はないけど、その寡黙なところが良いとかクールなところがカッコイイとか聞いたことある。
ある意味面倒くさがりで口下手なだけなんだけど、それはまぁ誰にも言ってない秘密ってことで。
「ツナ、どうだった?」
案の定、入り口から顔を出した生徒会長様に視線が集中する中、何かの確信を持ったようなリボーンの言葉に俺はちょっとどうしてやろうかと思った。
リボーンが今まで俺に叩き込んでいた勉強って何なんだっけ。そう思ってしまうくらい・・・あっさり問題を埋めることが出来たから、ちょっと拍子抜けしちゃったってのが本音だ。
「たりめーだ。半端な応用なんぞ教えるか。所詮中学レベルなんてこんなもんだ。・・・なぁ、実感しただろう。解答できる快感ってヤツを」
「・・・快感・・・って、うん、まぁ・・・。ありがと。リボーンのお陰」
「ん、当然だ」
実際、何点取れたかは返却されないとわからないけど、いつもの俺と比べたら、びっくりするような点数が取れるって信じてる。
この調子なら、ムリだ駄目だ無茶だなんて言ってないで、少しでも教科書開いておくのが正しいんだろう。
「よし、ツナ。今日もお前ン家行くぞ」
「え?なんで?」
「試験勉強あるだろうが。奈々さんには許可貰ってる。試験中みっちりお願いね、だとよ」
「かあさん・・・!」
また言わないで勝手に決めて!!
そのことについてはコロネロも知らなかったらしい。俺と同じように驚いて、また喧嘩が始まったけどしばらくすれば落ち着くだろう。
結局、今日もお泊り会は決定したのだった。
21. 張り詰めた糸
始まってしまったものはいつか終わる。
確かにその通りで、追試期間のこの一週間、勉強漬けだったのかと言われてみても意外とそうでもなかった。
それよりも更に近くなったリボーンとの距離に戸惑う方が先で、風呂だとか食事だとか寝るときだとか、一緒に暮らさないと分からない部分がどんどん見えて嬉しさでどうにかなってしまいそうだ。
母さんも冗談で『この際一緒に暮らしたらいいんじゃない?』なんて言ってたけど、あれは結局どうなったんだろう。直後に起きたコロネロとリボーンの喧嘩でうやむやになってしまったけど、それはちょっと勘弁して欲しい。家にいつもリボーンが居るんじゃ、気の休まる場所がなくなってしまう。
今は生徒会室で弁当を食べている途中だ。生徒会の面々も昼は使うことはないらしく、基本的に俺たち三人しかいない。・・・たまにスカル君がこき使われてるけど。
「・・・はぁ」
「ま、そんなに落ち込むな。お前なりには頑張ったじゃねーか」
「平均で70超えか、コラ。一年からの詰め込み直しでコレなら妥当だろ」
テストは一気に返ってきた。80点のラインを超えることは出来なかったけど、言われたように『俺なりには』凄い点数だったから。
でもまぁ、合格点は貰えなかったから夏休みの特別授業は決定したんだけど、それも毎日授業後にやる小テストで合格点を貰えればそれで補習は終わりらしい。それなら、まぁ仕方ないかってことで大人しく受けるつもりだ。
「でもこれでわかったろ。ツナはやらなかっただけでやれば出来ないことはない」
「うん」
努力もなにも、確かに俺は最初からずっと諦めてばかりいた。
努力するのはしんどいし、頑張って結果が伴わなければやる気も失せる。
でもそれは頑張りが足らなかったからだって、今ようやく理解した。時間は掛かっても、やれば出来るってこと。
だけど、俺がこれからも頑張るために必要なことがひとつある。
「・・・リボーン、これからも教えてくれる?」
「あぁ、最初に約束したろうが。最初の目標は並高合格だってな」
「うん」
もう始める前から無茶だなんて言わない。素直に頷いた俺の頭をリボーンは引っ掻き回すように撫でてくれた。
「そういえばツナ。お前、最近絡まれたりしてるか?」
リボーンにぐしゃぐしゃにされた髪を手櫛で梳きすかしてくれながら、コロネロが聞いてきた問いかけに、俺もそういえばと頭を捻った。あれだけうるさかった影口もうわさも、いまではすっかり俺の耳に入らない。
たまにちらほら視線は貰うけど、それはきっといつも一緒にいるこの二人のせいだろう。
「ううん」
けれど、最近よく声を掛けられるようになった。変な意味じゃなくて、おはようとか、ばいばいとかそんなすれ違いざまの挨拶程度だけど、ぜんぜん知らない人からもそんな感じで声を掛けられることが多くなった。
ちょっと嬉しくてそう二人に伝えれば、何故だか二人ともちょっと苦そうな顔をして黙り込む。
「え?なんか変なこと言った?」
「・・・いや」
何か目配せし合った二人が、『やりすぎたか』とか『切り過ぎだ』とかぼそぼそ言ってるけれど、それってこの髪のことだろうか。
わざわざ散髪屋に行くほどのことでもないし、長くなってきたら適当に自分で切ってた髪はそりゃあもう不器用な俺がやるんだから結果も散々なもの。だからって母さんに任せると妙に女の子みたいな内巻きになるから嫌だった。
そもそも、散髪屋で順番待ちするのも面倒であれば、切って貰う間に色々世間話するのも俺は苦手で、二度目に行けたことはほとんど無い。
それで、この間。リボーンに前髪を切って貰った日、帰ってきてから他も揃えてやるって言われて、前髪以外の場所も綺麗に切って貰った。切ってる間もコロネロとあーだこーだ言い合いっこしてたけど、終わってみればプロ並。
それから驚くほど髪も絡まなくなったし、勉強とか運動以外にこんなことも出来るリボーンに本当に驚いたものだ。
「あ、でも。そういえばリボーンに髪切って貰ってからかな。声掛けられるようになったの」
俺の外見で変わったのってぼさぼさだった髪の毛だけだったって言うのに、そんなに違いがあるものなんだろうか。
「・・・ツナは良く笑うようになったからな」
「え?そう・・・かな」
自分に自信がなければ、愛想笑い以外の笑顔なんてそんなに浮かべられない。
でもコロネロ、リボーンと一緒に居る時は楽しくて、ちょっと恥ずかしいけどどうしても笑ってしまうから。
「でも、そうだとしたら、それも二人のお陰だよ」
自信を付けてくれた。こんな俺のダメダメなところいっぱい知ってるくせに、それを承知で側に居てくれた。
対等の友達でいてくれた。・・・・ううん、そう思ってるのは、俺だけかもしれないけど。
「ねえ、コロネロ。リボーン」
「何だ」
「どうした、コラ」
そろそろ、決着をつける時かもしれない。
今俺たち三人の間で張り詰めたようにピンと張っている糸を、自分から切ってしまうのは凄く勇気がいることだけど。
「今日ね、放課後話があるんだ」
試験期間はもう終わったから、リボーンが泊まりに来る用事もない。
だから三人で話すなら昼休みか放課後しかない。明日の昼でも良かったけど、これ以上ずるずる延ばすと、結局逃げてしまう自分がわかるから。
少しで良いから時間が欲しいといえば、二人していいぞと頷いてくれた。
22.
「一人か、コラ」
今日はいつもより凄く時間が経つのが早く感じた。空はどんより曇っていて、夜には雨が降るだろう。早めに帰らなければ濡れて帰ることになるかもしれない。
そんな雨の降りそうな灰色の空の下、用事のない生徒たちが帰っていくのを屋上から眺めていた俺は、来てくれたコロネロの声に後ろを振り返る。
「リボーンはどうした」
「学級委員だからね。先生に呼び止められて用事頼まれてたから置いてきた」
昼休みの時に誰にも邪魔されたくないって言ったら、この屋上の鍵だけ貸してくれたのだ。
先生に捕まりながらもリボーンは俺に待ってろって言ってたけど、何となくコロネロもすぐ来るだろうと思って先に来ることにした。
「あぁ?そういやアイツそうだったか。ったく、似合わねーことしやがって」
ここ最近でリボーンをよく知った俺には、だからこそコロネロの意見に否定はできない。苦笑で返すとコロネロはニヤリと笑って近づいてくる。
何でもできるリボーンだから、会長も学級委員も完璧にこなす。でも、それが性格的に向いているかって言われたら、少し首をかしげるところもないこともない。
所詮、どっちも人気投票で決めたようなものだから、最初からリボーンにやる気があったのかどうかも不明だし。
「で。・・・何だ?」
「ん?」
「話、あるんだろ」
俺の隣のフェンスに、カシャンと身体を凭れさせてコロネロは空を見上げる。
子供の頃からずっとずっと、そこがコロネロの変わらない立ち位置。
けれど、いつからこんな風にコロネロを見上げていたんだったか。同じ位の身長だったのは本当にちょっとの間で、俺はぐんぐん置いていかれて、それでも後ろに手を差し出してくれたから、俺はずっと隣に立つことができたんだ。
「うん、コロネロ・・・・あのね」
言いたいことはいっぱいある。のに、何から話していいかわからなくて、壊れたレコードみたいに俺は何度もコロネロの名前を呼んではためらい、言葉に出来ないまままた黙り込むようなことを何回か繰り返した。
「・・・お前、好きなやつ居るって言ったな」
「・・・・・・・うん」
俺がわざわざ『話がしたい』なんていいだした理由なんて、頭のいい二人には始めからわかっていたことなんだろう。
「誰か・・・いや。分かってる。言わなくてもお前はアイツが・・・・リボーンが好きなんだろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・うん」
この三人の関係が心地良くて、壊してしまいたくなくてずっと黙ってたこと。
だからってこのままずっとこんな危ういバランスが保てるわけなんてないって分かってた。
「コロネロは、・・・もう、俺の側にはいてくれない・・・?」
ものすごく自己中で、我が侭な言葉だと思う。
「俺がお前を好きだって知っててそれを言うのか」
「っ・・・」
誰かを好きになるのはわくわくもするしどきどきもする。でも、すごく辛くて苦しい。
俺たちは今、同じ気持ちで苦しんでいるのに、お互いの方に向いていないだけでどうしてこんなに。
「・・・泣くな。泣かすつもりはこれっぽっちもないんだぜコラ」
コロネロの大きな手が、いつの間にか流れていた涙を拭ってくれる。
コロネロは俺が好き。あのキスも、俺にすごく優しいのも、俺が好きだからしたこと。
「でも、だって、俺・・・!」
コロネロの気持ちは嬉しいけど、困る。俺もコロネロが好きだけど、コロネロの好きと俺の好きは似てるようでぜんぜん違うから。悪くって申し訳なくって、だからコロネロのために何かしてあげたいのに、コロネロが一番望むことを俺は絶対にしてあげられない。
「なんで、俺・・・コロネロのこと好きにならなかったんだろ」
「今それを言うのはずるいぜツナ」
「ッ・・・!」
俺は嘘が下手だけど、どんなに嘘が上手い人も、きっと自分自身にだけは嘘がつけない。
俺がリボーンを好きっていう気持ちは誰にも、俺にも止められなくて、だから。
「そんなに泣くな。・・・別に、ツナが誰を好きでも、側にいて良いってんならお前から離れる気はさらさらねぇから」
「・・・え・・・?」
慰めるように抱き寄せられて、素直に縋りついた体温はよく知った幼馴染のもの。
俺をすっぽり抱きしめられるくらい随分大きくなっちゃったけど、少しぼやける視界で見上げたコロネロの顔は真っ赤だ。
「・・・俺たちはずっと一緒に居たんだぜ。これからもな。離れるなんて、必要ねえだろ」
「ごめん、ごめんねコロネロ!・・・・・・大好き」
男らしい太い首に腕を回して抱きつく。言葉の『好き』がlikeの意味だって知ってるだろうに。コロネロはにやりと意地悪に笑って。
「あぁ、俺も諦める気なんてないからなコラ。好きだぜツナ。愛してる」
「わ、!」
がしゃりと俺の身体を後ろのフェンスに押し付けて、ちょっと力を込めて頭突きをされた。コロネロからすればちょっとした仕返しなのかもしれないけど、これで許してくれるなら構いやしない。
「・・・さて、俺はそろそろ部活に行くぜ。今日の晩飯も期待してるからな」
ちゅ。
って、可愛らしい音が耳元で聞こえた。触ったのはほっぺただけど、音自体が恥ずかしくて堪らない。
「・・・、コロネロ!」
「そんな可愛い反応すんなよ。食っちまいたくなるだろ?・・・・なぁ、リボーン」
「・・・リボーン?」
コロネロの大きな身体が少し脇にそれて、後ろにあった屋上の入り口が俺からも見えるようになる。
そこでなぜか立ち尽くしたようなリボーンが呆然と、俺とコロネロを見ていた。
23. 甘い証明
俺と目が合った次の瞬間、リボーンはコロネロに向かって拳を振り上げていた。
「リボーン!?」
いきなり殴りかかってくる意味が分からなくて慌てて声をかけるけど、殴りかかる勢いは止まらない。それでもコロネロはリボーンの攻撃を予測してたように、難なく手の平で受け止めて見せた。・・・物凄い音がしたけど。
「てめぇ・・・幾ら幼馴染だからって許せる所と許せねぇところがあんだよ・・・!」
「だったらお前だけのものって所有印でもつけとけコラ!いい加減はっきりさせたらどうだこのドSが!!」
今まで何回もこの二人の殴り合いを見てきたけど、いつものはまだじゃれてる感じでお互いに加減だって十分してるようなものだった。でも、今のこれは違う。怖くて目を背けたくなるような本気の殴り合いだ。
お互いが本気で向き合ってるから、二人ともまだ怪我はないんだけど、でも!
「リボーン!コロネロ!やめろよ!やめろってば!!」
俺の声なんて届いてないのか、ぶつかり合いは一層激しくなっていく。
怪我なんてして欲しくない。喧嘩なんて、どうやって止めたらいいのかわからない。でも、俺にとってはコロネロもリボーンもどちらも譲れないほど大切だから、止めるしか、・・・痛いのは嫌だけど、こんな方法しか、なくて。
「もう・・・!やめろってばふたりとも・・・!」
吹っ飛ばされる覚悟で、二人の間に飛び込んだ。
痛いのは嫌だからぎゅうっと目を瞑ったまま、でもいつまで経っても衝撃は来ない。
「・・・ったく、危ない真似すんな!こいつだからいいものの、お前が受けたら吹っ飛ぶぞコラ!」
「コロ・・・」
ぴたりと、目の前で止められていた拳に、ちょっと腰が抜ける。しゃがみ込みはしなかったけど、膝がちょっと震えてる。
奇跡的に俺も怪我しないで殴り合いは収まったみたいだけど、やっぱり喧嘩してる間に飛び込むのは怖い。
この二人だから、俺に当る前にギリギリ止められたんだろう。ぶつかった時の痛みを想像してちょっとだけ震えていると、後ろからぎゅうと抱きしめられた。
「・・・飛び出して来んじゃねーよ・・・バカツナ」
「・・・リボーン・・・?」
動けないほどきつく腕を回されているから、顔は見えない。でも、背中に当てられた額と、密着してるリボーンの身体が少し震えてるのを感じて、俺も抵抗出来なくなる。
「・・・最初っからそうしてれば、ツナが悩む必要だってなかったんだぜコラ。これ以上隙を見せるなら、俺が掻っ攫うぞ」
「・・・ふ、誰がお前なんかにやるかよ。精々『幼馴染』の位置で指咥えて眺めてろ」
「さぁな。お前こそ横から取られねぇ様に、精々ツナを繋ぎとめておけよ」
何かを吹っ切れたようにコロネロは屋上から去っていく。
元々さっきの殴り合いも、コロネロは本気じゃなかったんだろう。何が目的だったのか、リボーンをわざと煽るようなことをして・・・挑発したみたいだった。
屋上から去っていった背中はもういない。でも、コロネロの答えは俺から離れるとかそんなんじゃなくて、俺の気持ちを受け止めた上で、まだ側に居てくれるってこと。
なんであんなにも優しいんだろう。コロネロには、何も返してあげられないのに。
「・・・泣くな、ツナ」
「・・・でも、・・・俺、・・・コロ、ネロ・・・に」
応えてあげられない。俺だってコロネロのこと好きなのに、同じ『好き』を返してあげられない。
震えていた膝から身体を支える力が抜けて、リボーンの腕がなければ立っていることさえ辛かった。
寄りかかるようになってしまいながらも、ボタボタと流れる俺の涙を隠してくれるように、リボーンの大きな手が瞼の上に重なる。
「リボーン、にも、俺、こんな・・・優しく、される資格なんて、ないよ・・・!」
自分が嫌になるくらい、我が侭だって知ってるんだ。
リボーンが欲しいのに、コロネロだって失いたくない。
「お前が俺に優しくされる資格が必要なら、もう十分持ってるじゃねえか」
「・・・リ、ボ・・・?」
「そうだツナ。一つ言い忘れていたことがある・・・」
ぎゅうと抱きしめられた背中が熱い。それだけでも居た堪れないのに、最近お気に入りらしい俺の髪に顔を埋めて、リボーンはそのまま黙り込んでしまった。
「・・・」
「・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・あ、の・・・」
結局俺の方が沈黙に耐え切れなくて口を開けば、少しだけ腕の力を緩めてくれた。
「あぁ、悪い。いざとなったら言い出しにくいもんだな」
苦笑交じりの言葉に、どんな顔をしてるのか気になって後ろを振り向こうとしたけど、またリボーンの腕が俺を逃がさないようにしっかり腰と胸に回される。
「愛してるぞ、ツナ。・・・きっとお前が俺にホレるよりももっと前から、俺はお前が好きだった」
「・・・・は?」
嘘だ。
突飛な言葉に、俺の頭は勝手に否定の言葉を並べ立てる。
だって、男同士で気持ち悪いだろうに、こんな俺に勝手に好かれて、でもリボーンは変わらず俺に接してくれた。
「コロネロの野郎の練習試合とか、一年の頃からちょくちょく来てただろ。いつも応援席で一人でな。女子の集団から隠れるみたいに座ってるお前を、俺がずっと見ていたのは知っていたか?」
そんなの知らない。
そもそも、俺がリボーンを認識したのは、同じクラスになってからだ。それまではコロネロの友達だってことさえ知らなかった。今となっては、それはコロネロがわざと教えなかったってこともあるのかもしれないけど、でも。
「同じクラスになった時は嬉しかったんだぞ。・・・・しばらくして、ツナから視線を感じることに気付いてな。まさかとは思ったが・・・・お前は、俺を好きになってくれた」
だって、リボーンはカッコよくて、何でも出来て、口は悪いしちょっと意地悪だけど・・・優しいから。
「もう好きを通り越して愛してるぞツナ。なぁ、俺がお前に優しくするには十分な資格だろ?」
本当に、これは現実なんだろうか。
完璧人間のリボーンなのに、本当に・・・俺を選んでくれるの?
だって。
「・・・俺、男だよ・・・?」
「知ってるぞ。男だってことも、運動も勉強も駄目で、すぐ逃げたがる臆病者ってこともな」
「・・・っ」
「だが出来ないことでも努力しようとする。少し頑固だが、そんなところも可愛いと思うし、何より飯が美味い。それを全部含めて、俺が好きになった相手がお前だ」
背中から抱きしめていた俺をくるりと回して、正面から抱きしめられる。
背中に回った腕が熱い。濡れてしまうからと突っ張っても、頭を広い胸に押し付けられてしまう。
「・・・悪かったな、すぐに返事してやらねぇで。不安がってるツナが可愛くて言いそびれてたんだぞ」
「・・・ひど・・、確かに・・・ドSなんだリボーン・・・」
あぁ、本当に俺って薄情者だ。
今までコロネロに罪悪感を感じて泣いていたって言うのに、今度は嬉しくてまた涙が止まらないだなんて。
「好き?本当に、・・・・信じても、良いの?」
絶対手に入らないと思ってたもの。これで駄目出しされたら俺はもう立ち直れないかもしれない。
「あぁ、いいぞ。信じられないなら、幾らでも証明してやろう。・・・まずは、そうだな」
でもリボーンは、泣いて酷い顔をしてる俺の顎を掬うように持ち上げて、濡れたほっぺたを拭ってくれる。
ぐっと近くなったリボーンの顔に恥ずかしいけれど逃げないで、でもじっと見てるのは耐え切れないからきつく目を瞑れば、目元に柔らかいものが触れる。
息が出来ないくらい苦しいのにそれをわかってるのかいないのか、リボーンはゆっくりほっぺたを滑ってついに、唇へ。
「・・・リ・・・ッ・・・―――!」
最初に触れた感触は少し冷たい気がしたのに、今重なってる唇はすごく熱かった。
息ってどうやってしたらいいんだったっけ?
心臓が破裂しそうに高鳴って、唇から移された熱で身体中が燃えてしまいそうに熱い。
力の抜け切った身体は自分ではもう支えていられなかったから、唯一力の篭る両手で縋るようにリボーンの身体にしがみ付いて気付いた。
重なった胸から伝わるリボーンの鼓動と、体温。
俺と、同じくらい・・・・熱くて、早い。
「・・・っは!」
息が苦しい。でも嬉し過ぎて、どうにかなってしまいそう。
必死に酸素を貪る俺をじっと眺めるリボーンの視線を感じて薄く目を開けば、また止める暇もなく唇が重なった。
「んッ・・!!」
「ツナ・・・・ツナ」
何度も重ねては離れて、角度を変えて擦り付けられて、軽く吸われたり、舌先で舐められたり。
その合間合間に呼ぶ俺の名前が何だか切なく聞こえて、俺も返さなきゃって思うけど、呼吸するだけで精一杯で何も出来ない。
リボーンが俺と同じ気持ちで居てくれるってとんでもなく嬉しいことだけど。
繰り返されるキスにどうしていいかわからない俺はただ必死でしがみ付くことしか出来なくて、それももう限界だ。ずるりと力の抜け切った俺は、崩れるままに地面に座り込む。
合わせて座り込んだリボーンの膝に落ちるように崩れながら、苦しい息を必死で整えようとリボーンの胸に凭れたまま荒い呼吸を繰り返した。
「息が整ったらもう少しな。ツナは何処もかしこも甘く出来てんだな・・・止まらねぇ」
「・・・は、も、勘弁して・・・」
「駄目だ。ずっと我慢してたんだぞ。まだ離してやれねーな」
瞬きと同時に目尻に溜まった涙が零れ落ちる。それを拭うように唇で受け止めて、息が整うまでそうやって顔中にキスの嵐が振ってきた。
「リボー・・ン、む・・・!」
「もう少しだけな。・・・好きだぞ、ツナ」
抱きしめてくれる腕も振るキスも優しいけど何処までも強引で、振り解けない。
結局空が黒く染まって雨の雫が落ちてくるまで延々と、リボーンに証明とやらを受けさせられたのだった。