A*H

R→←27←C 学パラ!(2011年正月SS!コロの出番がアリマセン!/笑)

*甘い、あまい・・・*

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:番外編 [12月31日:午前]

受験生にはクリスマスとか大晦日とかお正月とか、年間の大イベントは関係ない。
もう殆ど時間も無いうちに受験は始まってしまうんだ。
この夏休みで朝から晩まで勉強を叩き込まれていた俺は年末になってようやく問題集を受験用に切り替えることができた。
やっと同級生と同じレベルまで追いついたってことだ。
今になってわかったけれど、勉強は最初につまずくとあとは全く分からなくなるものなんだ。
逆を言えば、基本がしっかりしていれば、ある程度の応用も利く。
そして理解するといろんなことが見えてくる。どこを覚えればいいのか、どうやって考えればいいのかとか、鈍い回転しかしなかった俺の頭は今ではもう別人みたいに良く動くようになってくれた。
「それもこれもリボーンのお陰なんだけど・・・」
「ん?何か言ったか」
今日はリボーンと俺の家で勉強会だった。
学校は冬休みなんだから、今までの俺なら絶対昼までごろごろ寝て過ごしてたって言うのに、今はまだ午前中のうちに今日のノルマの半分は終わりが見えていた。
起きている時間の殆どを机の前で過ごしているっていうのに、リボーンが隣にいるだけでそれも苦痛じゃなくなる。
・・・ううん、最近は寒いからって理由で、リボーンの定位置はすっかり俺の後ろだ。
体格差のせいか俺がリボーンの前(というかもはや膝の上)に座ると、後ろからすっぽりくるまれるようにリボーンの腕が回ってくる。
確かに暖かいし、背中を支えてくれるから肩とか腰とか随分楽なんだけど、色々と慣れるまでは本当に気が散って仕方なかった。
でも気に入ったのか、絶対に止めてくれないリボーンに渋々許しているうちに俺の方がこの体勢に慣れてしまった。
リボーンが居ない時一人で座っているとなんだか背中が寂しいと感じてしまうほどには。
「ツナ?」
「ううん、何でも。・・・あ!そういえばリボーン、今日の夜とか明日はどうするの?」
リボーンとは座高も違うのか、そもそも体格的にぜんぜん違うから当たり前なのかわからないが、後ろを振り返るというよりは、上を見上げるようにしてリボーンの顔を下から覗き込む。
こんなに近くで見上げても本当に綺麗な顔。じっと見惚れていれば、リボーンは今更思い出したかのように頷いた。
「あ?・・・あぁ、今日は大晦日か。正直お前には年末年始も何もない・・・って言ってやりたいが、ま、休憩も必要か」
時間さえ掛ければ難しい問題も解けるようになってきた俺を、柔らかい眼差しで見つめながら髪を撫でてくれる。
「今日の頑張り次第では明日一日休みにしてやってもいいぞ」
「それは嬉しいけど、そうじゃないよ!リボーン、今日とか明日とかは流石にお家の人とか、帰ってくるんじゃないの・・・?」
「あぁそっちか」
からからと笑いながら、リボーンの腕が俺の前に回されて、ぎゅうっと抱きしめられる。
もうくっついているのも随分慣れたけど、こんな接触に照れないようになるまでにはまだ時間が掛かると思う。
リボーンは機嫌よさそうに笑いながら、俺を抱きしめたままで口を開いた。
「帰ってくるつもりでは居たみたいだがな、俺が断っておいた」
「えぇ!?なんで!」
「何でもなにも、日本での仕事がないのなら無理して帰ってくることもねーだろ」
それでも折角の年末年始なのに。家族で過ごすのは当たり前の俺からしたら、リボーンがけろりとしていることさえ寂しく感じてしまう。
「・・・ンな顔すんな。その代わり、ツナが一緒に居てくれるんだろ?」
「・・・・バカ」
ちゅ、と瞼に落ちてきた唇に小さく笑って、俺もお返しにリボーンの滑らかな頬にキスを返す。
最初っから唇にキスしてしまった俺はあれ以来自分からキスする恥ずかしさに耐え切れなくて、未だに頬とか、そういう子供っぽいキスしか返せない。
それでもリボーンは嬉しそうに笑うからそれで良いのかも知れないけど。
「ツナ。ここに・・・キスしていいか?」
「・・・・ん、・・・・っ!」
俺からキスを返したあとは絶対に確認をとった上で唇にキスを仕掛けて来るから、ある意味、俺からキスをするってことはリボーンにキスして欲しいって強請っているのと同じような意味なのだと最近気付いた。
だから、リボーンも嬉しそうに笑ってくれるのかもしれない。・・・・多分。
「・・・っん・・・、は、ちょ・・・、リボ・・・」
「まだ、だ。ぜんぜん・・・足りてねぇ」
重ねたり、擦ったり、ちょっと噛まれたり。
たまにリボーンの舌が俺の唇を舐めていくと、背筋にゾクっとした刺激が走る。
唇へのキスはまだ緊張が解けなくて、ぎゅっと瞑ったままも目も引き結んだ唇も強張った身体もがちがちで一気に体力が無くなる。
真後ろから俺を抱きしめているリボーンに振り返ってのキスだから、少し息苦しいのもあるだろうけれど、リボーンが満足して放してくれた時の俺はもう息絶え絶えでぐったりしていた。
「いい加減こんなキスくらい慣れろ。・・・・先に進めねぇだろうが・・・」
「は、ぁ・・・さ、き・・・?」
「何でもねぇぞ」
息苦しさに目尻に浮いた涙をちゅっとキスで拭われて、またしても顔の温度がかあっと上がるのが分かった。
肩で息を整えている俺を宥めるように髪を撫でてくれていたリボーンの手が、不意に離れて、俺はようやく閉じていた瞼を開く。
「・・・そろそろ昼だな。一度休憩にするか。奈々さんに昼飯をお願いしてくるぞ。ツナは・・・落ち着いたら降りて来い」
「・・・ん」
離れてしまったリボーンの体温に震える身体を誤魔化しながら、足早に降りていってしまったリボーンをぼぅっと見送る。
最近のリボーンはキスした後、必ず俺から離れてしまう。
暫くするとまたべったりとくっついてくるのだけれど、はやり、少し寂しいのは寂しいわけで・・・。
「・・・リボーン」
さっきまでリボーンが座っていた位置にぺったりと頬を押し付けて、絨毯に残る微かな体温にやっぱり少し切なくなった。





:番外編 [12月31日:午後]

「あら、じゃあ良かったら泊まっていってちょうだい!大晦日ですもの。大勢で過ごした方がきっと楽しいわ」
「ありがとうございます。お気持ちは嬉しいのですが、今日は帰ります」
「遠慮はしなくていいのよ?」
「はい。あの、一つお願いが。詳しくは・・・・明日の朝、また来させて貰ってもいいですか?」
「勿論!おせち料理は一緒に食べましょうね」
「はい、是非」
お昼ご飯を食べながらリボーンの家族が今日も明日も戻らないのだと母さんに告げれば、案の定お泊りのお誘いが始まった。
もうコロネロと同じようにリボーンがこの家で寝泊りするのも当たり前になってきた。
ちょっとした私物とか着替えとか、当たり前に俺の部屋に置いてある。
それがくすぐったいって思いながらも、最近はめっきり泊まりを了承してくれないリボーンに寂しい気持ちが生まれないわけがない。
「・・・リボーン、何か不便でもある?」
「なんだ?」
「ええと、そりゃ自宅じゃないんだから、色々不便とかあると思うんだけど・・・でも・・・」
しどろもどろな俺の言葉にも何を言いたいのかわかってくれたらしいリボーンが苦笑を浮かべてそんなことはないと笑いかけてくれる。
「ちげーぞ。寧ろツナの家の方が今は落ち着く」
「だったら、泊まっていけばいいのに・・・」
「あのなツナ。俺だって男だぞ」
「・・・?分かってるよ。それがどうしたの?」
「・・・わかってねーから言ってんだろうが。いい加減理性も緩むぞ」
「・・・??」
吐き捨てるように言ったリボーンは怒っていると言うよりはイラついているような、でも少し照れているような良く分からない顔でぶつぶつ呟いている。
それを分からないままにぼんやり眺めていた俺に、ぷっと吹き出すような母さんの笑い声が耳に届いた。
「青春ねぇ。母さんちょっと羨ましいわぁ」
「・・・いえ、その」
「隠さなくったっていいわよう。男の子だものね、仕方ないわ。それにしてもツナったら子供で。大変でしょう?」
「そんなことは」
訳のわからない会話を繰り広げている二人に首を傾げながらも、何か問題があるなら言ってくるだろうと黙々と目の前の昼ご飯を口に運んでいく。
「ツナ、そんなに急いで食べるな。良く噛んで食うと頭が良くなるらしいぞ」
「え、ほんと?」
「さぁな。ま、やってみるだけ無駄にはならねぇよ。落ち着いて食え」
「ん」
むぐむぐと噛む回数を増やしていると、やっぱり我慢出来ないというように母さんの笑い声が響く。
「もう、なんだよう」
「母さんばかっかり当てられちゃうわ。コロちゃんにお昼の連絡してくるわね」
ぱたぱたと立ち去った母さんを見送ると、不意にリボーンの視線がこっちを見つめていることに気付いた。
「ん?」
「明日の件な。・・・今日のノルマを少し増やして終わらせられるなら、明日は朝から一日休みだ。そして、初詣に行くぞ」
「初詣?」
「来年は受験だろ。迎えに来てやるから待ってろ」
「うん」
くしゃりと髪を撫でられて、俺は嬉しさに頬が緩むのを止められない。
午前中詰め込んだ内容が消し飛ぶ前に続きをしようと、食べ終わったら急いで部屋に戻った。
昼ご飯を食べに来たコロネロもその後ちょっと合流して一緒に教科書開いたりしてたけど、リボーンと口ケンカしてたのがほとんどだ。
ケンカの原因は基本的に俺とリボーンがくっつきすぎたとか体勢がどうだとかそういうことなんだけど。
・・・やっぱり、この体勢って傍から見るとちょっとおかしい気がしないでもない。
二人共、受験勉強なんて必要ないくらいに頭が良いから、俺がつまるところを見てくれつつも緩やかに時間は過ぎて、リボーンが帰る前にはなんとかノルマをクリアすることができたのだった。

 

 



:番外編 [1月1日:午前]

「では、今晩ツナをお借りします」
「はいはい。リボーン君だから大丈夫だと思うけど、大人が居ないからってあんまり羽目を外しちゃダメよ?」
「・・・善処します」
なんともなしに決まった初詣だったけど、どうやらリボーンは最初から俺をリボーンの家に泊めることまで考えていたらしい。
朝からまたリボーンが遊びに来て新年の挨拶してから、約束通りに一緒にお節食べて、ちょっと食休みにごろごろしてる時かな。
リボーンはいつの間にか母さんとは話をつけていた様子で、でもコロネロは俺と一緒にごろごろしてたから知らなかったらしくて最後まで外泊を許してくれなかった。
多分、年頃の娘を持った父親とかそんな感じでリボーンにねちねち何か言ってたし。
リボーン相手に絶対折れる気のなかった様子のコロネロだけど、俺がどうにもうきうきと楽しみにしてるのを隠さなかったからか、最後には俺のためだと許可をくれた。
そんなコロネロを母さんは『良く出来たお兄ちゃんね』と褒めていたけど、実際母さんがどこまで俺たち三人のことに気付いているか知りたくもない、ところだ。
「ツナ。何時でもいい。帰りたくなったら連絡しろ。迎えに行ってやるぜコラ」
「そんなに心配しなくて大丈夫だよ」
「馬鹿。男は狼だって知ってるだろうが」
「俺だって男だよ?」
「・・・あー!くっそ・・・!!!」
楽しみな気分が収まり切らずに溢れた笑顔のままでリボーンに手を引かれて行ってきます!って声を上げれば、苦々しい顔をしたままのコロネロと母さんが見送ってくれた。
「あら、コロちゃん。そういえば初詣だけでも一緒に行かないの?」
「邪魔なんだとよ」
「だったら後から私と行きましょうか」
「・・・ボディーガードくらいにはなってやるぜ」
「あら、頼もしい!お願いしちゃおうかしら」
残された二人がそんな会話をしているなんて知りもせずに、小走りにリボーンの隣へと並ぶ。
「天気良くてよかったね。もうちょっと寒いかと思ったんだけど」
「ツナ、マフラーは?」
「大丈夫そうだから置いてきちゃった。寒いかなぁ?」
今はまだぜんぜん平気だと笑うと、リボーンは繋いだ手をぎゅっと握り締めてくれる。
部屋の中とかだと俺の方が熱いのに、今はリボーンの手はほっとするくらい暖かい。
握ってくれる手も嬉しいけど、でも。
「・・・変、じゃない、かな?」
「平気だろ。・・・周りの視線なんか気にするな」
リボーンはそう言うけど、男子中学生が仲良く手を繋いで歩くのは色々と無理があると思う。
まだそんなに人気はないけど、すれ違う人の視線が全部こっち向いてるような気がして、俺は自然と俯きがちに歩くようになっていた。
でも、そんな俺の視線も隣を歩くリボーンに自然と吸い寄せられる。
男子中学生って同級生なんだから当たり前だけど、リボーンはどう見てもそんな歳には見えない。
真っ黒なコートに黒のスラックス。黒いマフラーから覘くのは真っ白なカッターシャツで、ネクタイはしてない。
そんな格好で更に高い身長とがっしりした身体は服の上からでも分かるし、何より・・・。
「・・・そんな可愛い顔で見つめんなよ。真っ直ぐ家に攫いたくなるだろうが」
「へ?」
「その服は奈々さんの趣味か?・・・ったく、気を使われてんだかなんだか・・・やりすぎだ」
「リ、リボーン?」
ふいっとそっぽを向いたリボーンの頬が少し赤いのは、きっと寒さのせいだけじゃない。
つられてなんか顔が赤くなってる自覚もあったけど、口に出せばもっと取り返しの付かないことになりそうで、必死で落ち着こうと呼吸を整える。
でも、繋いだ手から伝わる暖かさが心臓のドキドキを更に加速させていくことは中々とめられたものじゃなかった。

 

 



:番外編 [1月1日:正午]

家の近くの神社に行くのだとばっかり思っていたけれど、どうやらリボーンの目的は少し離れた場所にある並盛神社だった。
俺の家からだとどうしてもバスとか使ったほうが良いような距離だ。
中学校を通り過ぎた先にあるリボーンの家からなら、徒歩で行けないこともないような位置にある。
目の前に止まったバスに二人で乗り込んで、その時ずっと握ってた手がするりと離れて行ってしまったことに少し寂しさを感じてしまった。
「ツナ、どうした?」
「え、うん・・・ううん、なんでもない」
人目なんか気にするなってリボーンが言ったくせに・・・なんて考え過ぎだって分かってる。
困ったように笑いかけた俺の表情に、何か言いたいことでもあるのかじっと俺を見つめてくるリボーンは、周りからちらちらと向けられる視線なんて全く気にもしていない。
手を繋いでても繋いでなくても、視線は全部リボーンに集まるものなのだ。だから、人前だからって手を放されたんじゃないって知ってる。分かってる。
きっと、繋いでた手が冷たい風に晒されて寒いって感じる心が、寂しいって勘違いを起こしてるだけなんだって。
「・・っわ!?」
それなりに人の乗っていたバスに座席は空いてなくて、リボーンも俺も入り口あたりのドアの近くで立っていたわけなんだけど、突然車体が大きく揺れた。
バスなんて乗り慣れてもいないから、どこかを掴むことも忘れてぼんやりしてた俺の体はあっさり前に投げ出される。
「・・・・・っと、ツナ。大丈夫か?」
油断してた時に投げ出されたので情けなく転ぶのかと身構えた俺の体は、なんなくリボーンに抱き止められていた。
片手でつり革を握って、もう片腕で俺を抱きかかえるみたいな。
傍から見ればリボーンに抱きしめられたような状態だ。身長差もあるから、俺の顔はすっぽりとリボーンの胸に埋まっている。
瞬間、顔から火が出るかと思った。
「・・・ッ!?あ、もう、だいじょ・・・っうわわ!」
慌てて離れようと動いたけれど、また同時に大きな揺れに体が浮いて、無意識にリボーンにしがみ付いてしまう。
リボーンの腕も俺を放してしまわないようにぎゅうと力強く回されて、さっきより密着度は高まった。
「もうずっとそうしてろ。そう長い時間じゃねーよ」
「・・・うう」
周りから、くすくすと笑う声が聞こえる。どうやら、バスの揺れにここまで翻弄されてるのは俺だけのようだ。
もちろん恥ずかしくて顔なんか上げられないし、最悪でもこっち見て笑ってる人と視線が合ったら絶対死にたくなる。
それ以上に・・・リボーンにしがみ付いてる現状に、心臓が壊れたみたいにドキドキとうるさい。
絶対耳まで赤くなってしまっている自分を自覚している上に、間近にあるリボーンからはなんだかとってもいいにおいがするものだから、 恥ずかしいのを誤魔化そうとしがみ付いたのが余計に悪かった。
自分のドキドキがリボーンに聞こえていないか心配で。でも、顔なんて絶対に上げられなくて。
肌触りのいい真っ白なカッターシャツに顔を埋めたまま、ちくちくと刺さるような視線とささやかな笑い声を気付かないフリし続けることしか出来なかった。

 

 



:番外編 [1月1日:午後]

リボーンの言う通り、バスに乗ってたのはそんなに長い時間じゃなかった。
「あんまり乗らないのか?」
「え?何に?」
「バスだよ。・・・ま、見てりゃ分かるがな」
くっくっくと笑われて、返す言葉もない。
結局降りるまでしがみ付いてた俺の手を引いてバスから降ろしてくれたのもリボーンだ。
バスって意外に車高が高いから、降りるときにまたそこでバランスを崩しかけた俺をリボーンの腕が拾ってくれた。
そこからまた手を繋いだまま神社に向かって歩いているんだけど・・・・ 。
「でもそろそろ慣れておかないとな。数ヵ月後には毎日使うことになるんだぞ」
「え、何で」
「馬鹿。お前、自分の志望校の位置もわかってないのか?」
言われてみて気が付いた。
もしも、本当に奇跡みたいなことが起こったとして、リボーンが言うように俺が並高に通えるようになるんだとしたら、ここは通学路になるってことか。
並盛神社は並高のすぐ側だ。 神社に向かうまでの道に、その校舎が見えている。
「願掛けの意味も込めてな。今年はお前をここに連れて来たかった」
ぼんやりと周りの景色を眺めながら歩いていた俺の耳に、ふとリボーンのそんな声が聞こえてきた。
ずっと手を握っていてくれたから隣を歩いているものだと思っていたけれど、リボーンは俺より僅かに早く歩いているようで、今の俺は前を歩くリボーンの手に引っ張られている。
「リボーン?」
「約束だツナ。・・・今年の春からは一緒にここを歩くんだぞ」
「・・・でも、俺・・・」
「今更迷うなよ。クラスの奴らが三年掛けて勉強してきたことを、お前はこの数ヶ月でやり抜いた。あと3ヶ月・・・いや、二ヶ月もあれば並高くらい合格できる。少しは自分と俺を信じろ」
振り返ったリボーンは、普段学校で見るような優等生の顔を脱ぎ捨てて、無邪気な子供のような顔で得意げに笑っていた。
「ホント、どこからくるのその自信・・・」
「俺の能力からすれば当たり前のことだが・・・後押ししたのはお前の努力からだな」
握っていた手をぎゅっと握り締められる。一回りは大きいリボーンの手。寒空の下なのに、暖かいままの手。
リボーンは真っ直ぐに俺を見てくれている。
俺の勉強を見るなんて、投げ出してしまいたいくらい手間で面倒だったろうに、こんな俺でもみんなと同じ舞台に立てるように頑張ってくれた。
「・・・本当に、受かると思う?」
「あぁ」
「俺、本当にバカなんだけど」
「知ってる。・・・が、その分お前は頑張れるということも知っている。面倒くさがりだが、やり続けることが出来るって知ってるからな」
本当に、どうしよう。どうしたらいいんだろう。
家族の母さんとか、幼馴染のコロネロ以外で、俺をこんなに信じてくれる人なんていただろうか。
繕わない俺を見て、それでも呆れずにずっと手を差し伸べてくれた人なんていただろうか。
「・・・頑張れるかな。・・・リボーンが居れば、俺・・・やれるかな」
「当たり前だ。俺がツナから離れることはない。だから、お前の合格は当然のことだ」
強く手を引かれて、リボーンの隣に並ぶ。
近ければ近いほど見上げなくてはならない綺麗な顔をじっと見つめて、俺にも少し、自信が湧いて来た様な気がする。
「頑張るから・・・!だから、これからもよろしくね」
「『ずっと』が抜けてるぞダメツナめ。手放してなんてやらないから覚悟しとけ」
もう一度、手をぎゅっと握り直して足早に神社に向かう。流石元旦だから人も多いけど、俺はリボーンの隣で軽やかに歩いている自分に気付いた。
今更だけど、手を繋ぐってなんか照れくさいのもあるけど、凄く歩きやすいんだ。
勿論、多少速いって言ってもリボーンが俺に合わせて歩いてくれてるってこともあるんだろうけど、この歳でもよく転ぶ俺なのに、しっかりとした支えがあるみたいで安心して歩いていられる。
「・・・ずっと、握っててね」
「なんだ?」
「ううん、なんでもない!」
今は人目なんて全く気にならない!
知らない誰かの視線を気にするより、手を放すことの方が嫌なんだって気付いたから、俺からもしっかりと握る。
そうすれば、リボーンが少しくすぐったそうに笑ってくれるから、俺も嬉しくなって心からの笑顔をリボーンへ返した。

 

 



:番外編 [1月1日:夕方]

「・・・どうかした?リボーン」
「いや。別にどうもしないが」
神社に着く前から、リボーンの様子が少しおかしい。それは、初詣を終わらせて帰り道を歩いている今もずっと続いている。
手は握ってくれるけれど、目を合わせようとしてくれないし、そもそもリボーンから声を掛けてくれることも少ない。初詣とかお祭の醍醐味といえばやっぱり出店とかだと思うんだけど、リボーンがこんな調子だから冷やかすことすらしないまま真っ直ぐ神社を後にした。
「リボーン?嘘ついても分かるよ?どうしたの?お腹すいた?」
「・・・そういうわけじゃないが」
ふとリボーンの目がこちらを向いた。真っ黒の目が俺を映し込んできらきら光る・・・その色に見惚れていると、瞬間リボーンの顔が逸らされる。
「リボーン・・・俺、なんか怒らせるようなこと、した?」
「違う!・・・そうじゃない。あぁ、もうまずその格好が・・・」
「・・・コレ?」
今着ている服は母さんが用意してくれたものだ。新年なんだからと新しい服を買ってくれていたらしい。
タートルネックの白い長袖シャツに、ざっくり編んだセーターはベージュ。その上にまた白いダッフルコート。白いのは汚れが目立つから嫌だって言ったんだけど、『リボーン君が真っ黒ならツナは真っ白がお似合いじゃない?』なんていうから・・・つい、着てしまっただけで。
足は暖かいほこほこした生地のチェックのズボンに、なんかもこもこしてる靴。確かに暖かいけど、ちょっと可愛すぎやしないだろうかとも思う。
「あの、似合わない・・・かな?」
「似合ってる。可愛い」
「・・・か・・・」
「・・・だからこそだな、あぁくそ!帰るぞ、ツナ!」
「え、えぇ?」
どうやら怒ってる訳じゃないようだけど、でも機嫌が良いわけでもなさそうだ。何かリボーンの気に障ることをしてしまったのか、足早に歩くリボーンに引っ張られるままに俺も歩く。
「・・・っと、」
「あ痛!、っつ、何・・・? 」
急に前を歩いていたリボーンが立ち止まったお陰で、俺は思いっきり顔面をリボーンの背中に打ち付けた。おもいっきりぶつかったのによろけたのは俺で、そんな俺を支えてくれるリボーンは平然と立ったままだ。
「悪い。・・・家には今何も用意してないんだったぞ。最近はツナの家で食事することが多かったからな」
「あ、晩ご飯のこと?なんなら俺作るけど・・・」
「それは元々頼む気で居たんだが・・・食料がない。買って帰ろう」
リボーンが指し示したのは明るいライトに照らされたスーパーマーケット。
でも、ここで買うより、リボーンの家の近くで買った方が楽なんじゃないかって思ったんだけど・・・・。
そんな俺の顔から読み取ったのか、リボーンは笑って言葉を続けた。
「悪いな。ここにしか売ってないものがあるんだぞ。付き合えツナ」
「あ、うん」
そういう理由があるなら仕方ない。 納得してリボーンの後を追いかける。
流石にかごとか用意するのに手は放して、リボーンの家には何があるのか聞きながら今日の献立を決めていく。
やっぱり寒い時はスープ系が欲しいよね。 俺の家では和食が殆どだけど、たまにはイタリアンなものを目指してみるのもありかな。
トマトを厳選して選んでいたら、笑いながらリボーンがあれがいいとかこれがいいとか言ってきた。流石、イタリア人。リボーンはうちでもトマト料理系にはうるさい。・・・それはまぁコロネロも一緒だから、大して苦痛には感じないんだけど。
「乾燥パスタは家にあるぞ。ソースさえ作ってくれたら食えるな」
「缶詰のホールトマトの方が楽なんだけど・・・リボーンは嫌だよねえ」
「当たり前だ。・・・ま、自分で作る時には仕方ないがな」
「何それずるい!」
「今日はツナが作ってくれるんだ。多少の我が侭は許してくれんだろう?」
「・・・・・・・う・・・」
結局言い負かされた感じで、リボーンが選んだトマトをかごに放り込んで行く。そんな俺たちの様子を幾つもの微笑ましい顔や、悔しそうな顔が眺めているとは気付きもしなかった。
「・・・わ、雪!」
「今日は朝から冷えたからな。降るだろうとは思っていたが、もう少しずれてくれたらありがたかった」
「どうして?キレイじゃん!俺、雪って本当に縁がなくって・・・ッしょん・・・!」
リボーンが荷物を持ってくれているから、ふわふわ降る雪にはしゃいでたら、次の瞬間にはくしゃみが出た。
冷えた鼻が痛い。続けざまに二、三回くしゃみをした俺の首元に、ふわりと暖かい何かが重ねられる。
「・・・今の時期に風邪でも引いたら馬鹿を見る。埋まってろ」
「でも、それじゃリボーンが!」
「俺は寒くないぞ。・・・な?」
空いた手でぎゅっと握ってくれたそれは、確かにホカホカに暖かい。こんなにもこもこな俺より軽装に見えるのに平然としているリボーンは確かに寒くなさそうだ。
「急いで帰るか。・・・ここからならバスを使わない方が家に近い。裏道があるんだぞ」
さっきまで、俺のことを全く見てくれなかったリボーンが、さっきのスーパーで機嫌を直したようだった。なんだか良く分からないけど、リボーンの機嫌が直ったなら俺は嬉しい。
「うん、早くリボーンの家に行きたいな」
「・・・あぁ、そうだな。冷えたら困る。早く帰ろう」
また一瞬、リボーンの態度がかちんと凍った気がしたけれど、気のせいなのかな。
まばらに人の歩く道をすり抜けて、俺とリボーンは足早にリボーンの家まで歩いて帰ったのだった。

 

 



:番外編 [1月1日:夜]

「・・・やっぱり、お家の人いないんだね」
「帰って来なくていいって言ったからな。ツナも気を使わないで楽だろ」
「そういうのじゃないよ!もう・・・」
まだ何度目かのリボーンの家。だけれど、泊まるのは今日が初めて。いつ来てもしんと静かで、リボーンが本当にここにずっと一人で暮らしてるんだって思うと・・・ちょっと信じたくない感じだ。
うちなんかとは比べ物にならないくらい広いし、きれいなんだけど・・・・なんだか寂しい。
「美味かったぞツナ。ご馳走さまだ」
「はい、お粗末サマでした。片付けもやっちゃうから、運ぶのだけ手伝って」
「あぁ」
トマトスープと言ったらミネストローネ。あとはパスタとサラダと、パンでのご飯はちょっとだけ豪華に見える。
リボーンの家にまさかの炊飯器がないなんて思わなかったからだ。
道理で、うちのご飯とかお弁当のおにぎりとか嬉しそうに食べるわけだ。
「リボーン、いつも何食べてるの?」
「普通に食べてるが?・・・そうだな。でも最近はツナと奈々さんのお陰で舌が肥えてな。家での食事は美味くない」
「だったら・・・!」
えっと、俺は何を言おうとしたんだろうか。
「『家で食べていけ』、か?あぁ、それは確かに良いな」
「う、うん。どうせ、毎日勉強見て貰ってるんだし、ご飯くらい・・・」
「あぁ、これからは少し遅くもなるだろうしな。奈々さんも許してくれるなら甘えるぞ」
こくんと頷いた俺の髪をくしゃりと撫でて、リボーンはリビングの方へと戻っていく。
対面キッチンだからそのままリボーンが廊下の方へ出て行ってしまうのを眺めながら、俺は内心言おうとした言葉に溜息を付いた。
俺が言おうとしたのは、『食べていけばいい』じゃなくて『作りに来るから』だったなんで・・・俺、リボーンに何がしたいんだろう。
まるでこれじゃリボーンの彼女気取りじゃないんだろうか。そう考えてみて、そういえば弁当も作ってるし、休みの日どころか毎日遅くまでべったりとくっついてる俺とリボーン・・・。
確かに、好きって言って貰えたし、俺もリボーンのこと大好きなんだけど・・・・男同士だし。
そういえば、男同士って・・・男同士の恋愛って何か続きがあるんだろうか。
俺は一緒に居るだけで嬉しいし、抱きしめられるのも・・・キスされるもの凄く幸せになれるけど。
確か、普通に女の子の彼女が出来たら、違うはずだ。確かこの先に
「ツナ」
「ひぁっ!?」
危ない!洗いかけの皿を落としかけた。何とか割れずにシンクに落ちたけど、心臓がばくばく鳴ってる。
「ツナ?」
「ああうんなんでもない!どうかした?」
何とか平静を装って、食器を綺麗に流し終わると、腕を拭きつつリボーンの側へ行く。
「・・・・あぁ、風呂沸かしたから入って来いよ。まだ冷えてるだろ」
「わ」
ぺとっと触られたのはほっぺただ。いやでもまださっきの名残で熱い気がするんだけど、それ以上にリボーンの手が暖かい。
「ええ?でも・・・リボーン先に入りなよ。俺から先にって、なんだか・・・」
「お前の家でも俺を先に入れるだろうが。・・・・それとも一緒に入るか?」
「・・・は・・・」
言われた言葉が一瞬理解出来なかった。男同士だし、銭湯とかだと確かに当たり前なんだけど!でも!
「・・・無理・・・!だから、リボーン先に入って!」
「なんだ。俺がのぞきでもすると思ってるのか?」
「もう!そんなんじゃないってば!」
さっき考えていたことが頭の中を巡って、想像したリボーンの肌とか、頭から消えてくれなくて、きっと俺の顔は真っ赤だ。リボーンの方はそういう意味で意識してるのか、してないのかよく分からないけど、俺よりは絶対慣れてるし、平気そうな顔で笑っている。
「これ以上からかうのも可哀想そうだしな。ほら、良いから入って来い。風邪でも引かれたら困るんだぞ」
「・・・うん」
これ以上、断る理由も見当たらない。確かにうちでもお客さんであるリボーンに一番先に風呂を使ってもらうし、それと同じなんだって考えたら素直に受け入れられた。
案内された先はそりゃあもう広い風呂場で、ガラス張りのシャワールームまで付いてる超豪華な場所だった。
「・・・これ、俺の部屋まるまる入るんじゃないかな・・・」
広すぎる風呂場に落ち着きがなくなりそうだけど、とりあえず暖かいお湯は嬉しい。
コロネロも暖かいけど、リボーンも凄く暖かかった。コロネロに言わせて見れば俺は痩せすぎで肉がないから寒がりなんだっていうけど、二人共なんか他に理由があるような気がする。
身体と髪を適当に洗って、丁寧に流してから湯船に沈む。 ふと、風呂場なのに時計が掛けてあるのに気が付いた。防水仕様なのかななんてどうでもいいことを考えつつ、針を読む。
「・・・・はー・・・まだ九時かー・・・。お風呂出たらどうしよう・・・」
いつもはうちにコロネロとか母さんとか居るから、あんまり意識してなかったことだけど、俺たちは好き合った同士で、今は二人っきりで・・・。
風呂から出ればもう後は寝るだけだろう。まだ夜は長いっていうのに、風呂上りにすぐ寝るっていうのも変だ。
テレビとか見ても良いけど、リボーンはあんまりテレビとか見ないらしい。そういう俺もゲーム以外でテレビの画面を見ることはほとんどないんだけど。だから、テレビは却下。かといって、リボーンの家にゲームが置いてあるのも見たことがないからゲームも却下。
「・・・いつもは何してたんだっけ?リボーンが家に来てくれた時はいっつも時間が過ぎるのが速くて・・・」
悶々と考えているうちに、身体は十分あったまったらしい。どころか、ちょっと長湯しすぎてのぼせたかも・・・。
追い炊き出来る風呂らしくてお湯は全く冷めてない。それどころか普通はひんやりしてるだろう風呂場も暖かいままで、俺は用意してあったタオルと・・・バスローブらしきものを見つけてちょっと言葉を失った。
「・・・あ、俺ぱんつとか持ってくるの忘れた・・・」
カバンの中を漁ればあるんだけども、この浴室に持ってくるのを忘れたんだ。
でもパジャマは持って来てない。借りればいいやとか考えてたけど、そもそもリボーンは俺の一回り二周りは違うんだから借りたってぶかぶかだろう。
「・・・・これ、着るしかないかぁ・・・」
仕方なく適当に袖を通して、帯を結ぶ。浴衣よりはまぁ簡単だから着方に迷うことはないけど・・・・。
「似合わねー・・・」
どう考えてもリボーンサイズなバスローブだ。足首まで隠れてしまって、本当に父親の服借りた子供みたいだ。
「上がったのか、ツナ・・・、」
リビングに戻った俺に、リボーンが一瞬顔を固まらせて、でも次の瞬間にはソファへ座るように促してくれた。
今日はリボーンが固まるのを良く見るなぁとぼんやり視線で追いかけていれば、目の前に水を差し出される。
「今は冷たい方が良いだろう。氷は必要ないか」
「うん、大丈夫。ありがとう」
ちょっとのぼせたままの俺には冷たい水が嬉しい。キンと冷えた水は氷なんていらなくて、そして炭酸っぽいぴりぴりした味が残る。
「これなに?」
「ペリエだ。天然の炭酸水だな。風呂上りの喉越しにはちょうど良いだろ?」
初めて飲むけど、確かにおいしい。喉越しが最高だ。
おじさん世代が風呂上がりにビールでかー!っての良くやってるけど、その気持ちが分からなくもない。
「髪はちゃんと乾かせよ。なんならまた俺がやってやるが」
「・・・あー・・・うん」
俺の思考はちょっと遠くに飛んだままだ。喉の渇きも癒えたことだし、もう一度これからの時間の使い方を考える。
だってこのまま寝るのはもったいない。明日には家に帰ってまた勉強だって言うのに・・・ん?勉強?
「あぁそうだ、勉強!」
「なんだ?今日は許してやるって言ったのに勉強したいのか?」
「え、あっ、違・・・!」
違う、けど違わない。そうだ、いつもやたらと時間が早く過ぎてしまうのは勉強してるからだ。
リボーンに教わって集中するってことに慣れてきた俺は、今では時間の経過をあまり感じないままに机に向かっていられる。時には時間が足りなくて悔しく思うくらいには。
だからあんなに長く感じた授業中も、今では一つ一つがあっけなく過ぎてしまって、本当に自分に時間がないんだなって思い知らされてる。
「違うのか?今日決意を新たにしてたからな。今からでも頑張るのかと思ったぞ」
「あ・・・」
そう言われてしまえば、その方が良いような気もする。リボーンが折角つくってくれたテキストも全部俺の家だけど、リボーンが居るなら、それだけでどんなテキストも必要なくなるから。
「・・・だが、ダメだ。今日はしっかり休む日だぞ。たまには頭も休めないとな」
「・・・う」
リボーンとコロネロのことに悩みすぎて、俺は何度か熱を出して倒れた。
知恵熱って、すっごく小さな子供がなるものだと思ってたけど・・・歳は関係ないんだろうか。
今日何度も言い負かされている気がする。何となく悔しくなってリボーンを見上げれば、隣に座ったままだったリボーンの身体が俺の方へ近づいてきた。
その顔は、今日何度か見た硬直する前のリボーンの表情。けれど、今は固まらずに、俺の濡れた髪へ手を伸ばしてくる。
「・・・どうしても勉強がしたいなら、教えてやらなくもないぞ。今日はこっちのな」
「こっち・・・って?・・・ん、む・・・?」
髪を撫でている手と、反対側の指先が俺の唇の上に乗る。抵抗・・・する気もないけど、そんな暇もないほど一瞬で被さってきたリボーンに、そのまま唇をふさがれた。
「・・っ、・・・は、・・・リボ・・・ッ、ん」
「ツナ」
重なった唇は何度も離れては、擦り合わせるように重ねられる。
まだどうにも慣れなくてきつく閉じてしまう目も、口も、強張ってしまう身体も、リボーンの手の平が丁寧に宥めるように動くから、少しづつ、力も抜けて・・・。
「ツナ、・・・口、開けろ」
「・・・?・・・ん?!ふ、ぅう、ンむ・・・っ!!」
少し開いた唇の間を舐められたと思ったら、熱い何かがそのまま口の中へ入ってきた。
初めてじゃない、けど!でも・・・キスですら精一杯の俺に、こんなのは・・・まだ・・・!
ぞわぞわと肌の上を走る刺激を止められなくて、身体がびくつく。熱いリボーンの舌が俺の口の中を舐めていく刺激に身体がバラバラになりそうだ。
重なっているリボーンの身体を押しのければ良いのか縋って抱きつけばいいのかさえ分からずに、胸元の服をぎゅうっと握りこむ。
ふ、と笑ったような吐息が聞こえたけど、その笑い声に怒る暇もなく、リボーンの膝の上に俺の身体は抱き上げられていた。
「・・・ツナ。ツナ」
「も・・・や、ぅ、・・・ふ、ぁ、・・・!」
ざらざらした舌の表面が俺の上顎をなぞると、くすぐったいのと同時になんとも言えない感覚が身体を過ぎる。喉の奥の方まで舐められている気がして、今の俺はリボーンに食べられてるみたいにキスされてるんだろうか。
恥ずかしすぎて目なんか開けられない。息も鼻ですればいいってわかってても、身体が言うことを聞かない。
酸欠と訳のわからない感覚と熱いので翻弄されて、今何を考えてるのかも分からなくなってくる。
「ふ、・・・ん、んん・・・ぅ、・・・は、あ、ぁッ!」
歯を丁寧になぞっていたリボーンの舌が、奥で縮こまっていた俺の舌を見つけると、生き物みたいに絡みついてくる。
そのまま強く吸われて ぴりぴりした感覚はビリビリと痛いほどに背筋を走り抜けた。
大きくのけぞった俺を、ようやくリボーンが解放する。力なんて全て抜けて後ろに倒れそうになった俺の背中をリボーンの腕が抱えて、胸元に抱き寄せてくれた。
ソファーに座ったリボーンの膝の上で横抱きに抱えられている俺だけど、座高にも差があるのか、俺の頬はリボーンの肩辺りへ乗せられている。酸欠で苦しくて、涙で視界がぼやけるが、間近にあるリボーンの顔を見上げていれば、もう一度唇が降りて来た。
さっきの息苦しさやぞわぞわする感覚に少し怯えてびくっと身を縮めたけれど、額とか頬、浮いた涙とか優しく顔中に唇が降りてくる。
「・・・り、ぼ・・・」
怖いくせに、そんな風に優しいだけじゃ物足りなくて、何となく名前を呼んでしまう。
自分で出した声なのにびっくりするくらい掠れてて、なんか甘ったるく聞こえた。
「・・・・っ」
リボーンがなんだか悔しそうな顔をしてみせたけど、ソファーに寝かせるように俺を横たえた後はすっと俺の上から離れていく。
「・・・やり過ぎたか。でもま、ツナが可愛いのが悪い」
「俺は・・・っ」
「少し休んでろよ。・・・風呂に入ってくる。待ってろ、すぐだ」
ちゅっと、最後に唇に触れるだけのキスをくれたリボーンはそのままリビングを出て行ってしまった。
何となく置いていかれたような寂しい気持ちを感じながらも、ある意味ほっとしている自分がいる。
だってキスならまだ、男とか女とかあんまり関係ないと思うけど・・・・その先は。
女の子が羨ましいわけじゃない。リボーンは男の俺でも好きだって言ってくれたし、その・・・いっつも俺のことを可愛いっていう。それがホメ言葉なのか呆れられてるのかはわからないけど。
女の子だったら出来る続きの行為も、男の俺じゃ出来ない。俺にはまだ良くわからないけど、リボーンは多分、苦しいはずだ。女の子との経験がないはずがないんだから。
その先の行為が当たり前だった今までと比べて、俺はリボーンに何もしてあげられない。
それが、くやしい・・・。
「・・・ツナ?」
閉じていた目をぼんやりと開く。なんだか、色々と考えすぎた上にさっきのキスで俺の体力は限界値を迎えたらしい。
眠気に抗って目を開けた先には、心配そうな顔をした風呂上りのリボーンが俺を覗き込んでいた。
真っ黒な髪が濡れて、もっと深い色になっている気がする。風呂上りのせいか、いつも真っ白の肌が少し赤らんでて、目も少し潤んでるみたいに見えて・・・。
・・・・なんだろう。綺麗過ぎて、カッコ良過ぎて、やっぱり信じられない。
「リボーン、本当に・・・俺でいいの?」
女の子となら、さっき俺が想像したように恋人同士として最後まで出来るはずなのに。
リボーンは俺を選んでくれた。でも、俺じゃあ物足りないってわかってるから・・・。
「リボーンが他に女の子と付き合っても、俺はかまわないよ。・・・リボーンが少しでもおれを好きだって、いってくれるなら・・・れ、は・・・」
これからも、ずっと一緒にいたい。
大事なところを伝えきれずに、俺の意識はかくんと落ちた。
あぁ、お休みもまだ言ってないのに。せっかくのお泊りだったのに、まだ、何もしてないのに。
疲れ切った俺の頭と身体は休息を求めて、深い眠りの中へと沈んでいったのだった。

END☆

⊂謝⊃

お久しぶりの学パラリボツナコロです!でもずっとリボーンのターン!(笑)
地味にSSSからSS化してしまったのでちょっとずつアップしちゃえ。(貧乏性)
いい加減我慢のきかなくなった先生の葛藤とか葛藤とか書けたらいいなあ。
多少シモなネタ含んでしまうかもですが、所詮可愛いお話ですので警戒は不要かと。(爆)
でも少しは進展させたい。少しは・・・!

というわけで完成です!うふふ、スゴイトコロで終わりやがりましたね。
そんな簡単にツナを先生にはあげません。もっともっと我慢して貰います。
コロネロなんて10年は我慢したんだからね!先生も一年とは言わないがもう少しくらい我慢しやがれってんだ(笑)
そもそも、このお話は連載してた告白からくっつくまでの夏・秋に色々あって、やっと冬を迎えた彼等なのですよね。いちゃこら度が格段に増してるのはそういう意味あってのことです。
夏休みとか、先に書いてあげたかったなーとは思いますが、また後日談じゃないけどどこかで書ける日を夢見て。(笑)

 実は高校編とかツナの従兄弟とかリボーンの兄弟(!?)とかネタは脳内に溜まりつつあるんです・・・ヨ。(笑)


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