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2005年ハロウィン企画・・・<裏舞台>

裏1裏2裏3


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「お祭り?こんな時に?」
季節はもう秋。うだるような暑さは日に日に涼しく過ごし易い温度へと変わって行くこの時期。
振って湧いた休日にのんびりしていたオミだが、突然姉のナナミの部屋に連れ込まれ、なにやら計画案を見せられていた。
「こんな時だからこそやるんじゃない!悩みの種の王国軍も、暫くは襲って来ないだろうし・・・ね?」
今まで張り詰めた空気の中で戦い抜いてきて、漸く息を抜ける時間がやって来たのは、確かに今この時だろう。
狂皇子とまで呼ばれたルカ=ブライトを打ち倒し、主君を失ったハイランドは今はまだ混乱の最中にある。
あれほどまでに勢い付いていた勢力は半減し、今では滅多に彼等の襲撃の噂も聞かない。
その間にも、ティントや周辺の諍いに駆り出されてはいたが、表立って戦争をけしかけられる時期でもなかった。
「でも、僕が『いいよ』って言ったとしても、結局はシュウがなんていうか・・・だよ?」
「いいのよぅ!シュウさんにはもう許可貰ってるもん。たまには息抜きしないとね、やっぱり疲れちゃうもんね」
「・・・もう、許可貰ってるって・・・それは決定事項って言うんじゃ・・・」
「はいはい細かい事は良いから!オミも急いで準備しないと、お祭りに間に合わなくなるよ?」
「え?準備?何の・・・」
と、言いかけたところで、ナナミの部屋の扉が軽くノックされた。
掛ける声もないのに、それだけでナナミには誰が訪ねて来たのか分かるらしい。
「あ、お迎えが来たみたいね!はいはいどーぞ!」
「お邪魔するね」
と、何故かこの場に現れたのは、南の隣国、トランにいる筈のその人で。
勿論、オミは思いっきり驚いた。そして焦っていた。
「セ、セフィリオ・・・?!何で、今日は」
「忙しいんだよね?どんなに待っても身体は空かないから来ても無駄って言ったくせに、何してるのかなオミは」
「あ、いえ、それは・・・」
嘘を付いた訳ではないが、暫く纏まった休暇を貰えたのは確かで。これでは嘘をついたようなものだ。
会いたくないための嘘をついた訳ではないけれど、そう正面から問われると返答に困る。
けれど、困り顔を見せたオミの髪に指を埋めて、セフィリオはイタズラっぽく笑った。
「ごめんごめん、困らせるつもりじゃなかった。知ってたからね、オミが今日休みになるのは」
「え?・・どうして」
「どうしても。君は、あの皇子を倒したんだって、その意味をまだ分かっていないの?」
そうと言われても、中々にぴんと来ない。思案始めたオミに苦笑を零して、セフィリオはナナミに向き直った。
「ナナミ、オミに話してくれた?」
「丁度今話そうとしてた所なんです。あ、そうでした!出来上がりましたよ、これ!」
ナナミの手から、オミとセフィリオそれぞれに、薄い冊子が渡される。
図書室の本の様にきちんと装丁されていない本はある意味珍しく、オミは不思議そうにそれをぱらぱらと捲った。
「『世界は過去に遡る・・』・・・って、これ、お話?」
どうやら、昔この近辺で起こった出来事を色々と弄りまわして、一つの物語にしたようだ。
手書きのそれは、けれど普通の本ではなく、二段区切りになった上部分には名前、そして下には台詞や動作が書き込まれた奇妙な書かれ方をしている。
捲りながら、オミは姉にそう問い掛けた。すると、にこやかに微笑みながら頷いて、一言。
「うん、台本」
「台本?・・・何の?」
台本といわれて漸く納得が行く。でも、それを渡された理由がわからない。
首を傾げるオミに、ナナミは、秘密にしていたナイショ話を打ち明けるような笑顔で、嬉しそうに告げた。
「勿論、舞台の台本よ!オミ、主役なんだから気合入れて頑張ってね!」
そう言いつつ、ナナミは衣装箱をひっくり返す勢いで何かを探している。
「・・・・」
話が見えない。どころか、後ろで息を殺して笑っているセフィリオもどうやら共犯者だったようだが、そんな話受けた覚えもなければ聞いた覚えもない。
「主・・役って、なんでいきなりそんな・・・?!」
いつの間にやら勝手に話が進んで、今のこの瞬間までオミに秘密だったらしい。
「大丈夫よ。お話自体はそう長くはないの。オミならこれくらいすぐ覚えられるでしょ?」
「そういう問題じゃなくて!なんで、舞台なんか・・・」
「だから、お祭り。さっき話したでしょ?」
オミが先程見ていた計画表を示されて、唖然とする。
そこには、きっちりと舞台の予定と配役まで細かく丁寧に書かれていた。
全く読んでいなかった自分が恨めしいが、今更断る事も出来ないような気がして仕方がない。
「ね?お姉ちゃんの楽しみ、奪わないでくれるよね・・・!?」
先程からなにやらごそごそしてると思えば、取り出した衣服を抱えるように持たされる。
この話の流れで渡されるということは、これがオミの着る舞台衣装なのだろう。
「・・・ナナミ」
絶対嫌なら、幾らナナミのお願いだとて逃げる事は出来る。けれども・・・・。
「僕も楽しみにしてるんだから。今更、逃げたって無駄だからね」
くすくすと後ろから笑われて、オミは小さく溜息を零した。
所詮2対1。しかもこの二人を相手に、勝てる訳がないのだから。



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あれよあれよと言う間に自室に閉じ込められて着替えさせられ、今更だがもう逃げる事も出来はしない。
結局台本は読む気がしないまま、着替えてみた自分に苦笑が洩れて、溜息を零している所を再びナナミに攫われた。
「・・・こんなものいつの間に」
連れて来られた舞台は、二階のステージ。いつもはカレンやアンネリーたちが兵士や客を和ませている所だ。
あんまり大きくなかったステージは何時の間にか改築されていて、端から端まで全力で走って10秒は掛かってしまうような巨大な舞台へと変貌していた。
それだけではない。
「もう・・こんなにも準備が出来てるなんて・・・」
舞台の上には、どうやって作ったのか分からないほどの舞台用具が所狭しと並べられていた。
裏から見れば厚めの板に描いたものや、軽い木や石を削って作ったものもあったが、確かに正面からみれば立派に背景と化している。
「オミが執務室で紙とにらめっこしてる時にね。オミを脅かそうって、初めは違う子が主役だったんだけど・・・」
と、ナナミが取り出したのは小さな数枚の紙。どこかで見たことがあると思ったら。
「それ、目安箱の?」
「そうそう。こっそりビラ撒いただけなのに、舞台に関する意見が結構いっぱい入っててねー。勝手に悪いと思ったんだけど、舞台関係のものだけは横から抜かせてもらっちゃった」
差し出されたそのまま受け取って、目を通してみれば。
「・・・何これ」
「だから意見と希望よ。どうせなら軍主の主役が見たいって、みんなの意見の結果こんなふうになっちゃったのよ」
オミを脅かそうと秘密にしていたはずが、オミを主役にとの声が多かった所為で、主役であるにも関わらず、こんなにも連絡が遅くなってしまった、ということらしいが。
「オミが主役を張るとなれば、台本作製班も気合が入ってね〜v女の子は喜ぶこと受け合いな素敵なお話に仕上がったのよーv」
「へ、へぇ・・・。・・・あれ?でも、なんでセフィリオも知ってるの?」
セフィリオは、元はといえばこの軍の部外者だ。
ただ、軍主のオミと親しい位置にいるというだけで重役のような立場にいるが、傍から見ればただの客。それなのに、オミよりも早くこの情報を知っていたようだった。
不思議に思って尋ねると、ナナミはくすくすとおかしそうに笑う。
丁度、舞台の裏から出てきたセフィリオを振り返って、にっこりと。
「あれ?オミ、ちゃんと台本読んでないの?セフィリオさん、オミと同じで主役なのよ」
黒いズボンに白い長袖の丈が短いチャイナスーツ。
派手ではないが、彼が着るともの凄く派手になる。というか、正に貴族という感じで。
一方オミが身に付けているものは、一般的な・・・いや、それよりも下の階級の者が着るような庶民的な衣服だ。
この落差で、お互いに主役らしいが。一体どんな話なのか想像も付かない。
少し不満げな顔をしてしまったのか、小さく笑われたと同時に腕を掴まれて、抱き寄せられる。
「・・・よろしく、共演者」
耳元で低く囁かれて、驚きに硬直したままのオミの頬に、軽く口付けを落としてきた。



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流石に殴ろうとしたオミの手は、役者の顔は止めろとの理由で周りの全員に止められてしまったが、今のセフィリオの行動を誰も彼も全く気にもしていない。
セフィリオがオミを気に入っていることは確かに周知の事実だが、突然男同士のキスシーンを見せられても、誰もオドロキもしないのはどういうことか。
「・・・・・・・・・」
場所を移して、オミの部屋。今ではもう二人とも普段着に着替えている。
一度も台本を読んだことのないオミを交えての練習はまだ出来ないので、相手役のセフィリオと本読みをしようと部屋に連れ戻されたのだ。
読み始めて、始めのうちはまだいい。転換していく場面と緊迫感が、確かに面白い話ではある。・・・・が。
「・・・・・・・嘘だ」
台本を読んで、誰も驚かない理由がわかった。理解はしたが、納得は出来ない。
「何で!?男同士で、こんなシーンがあるんだよ・・・っ?!」
どうやら、先程のセフィリオの行動は役に入ったためのものと思われたらしく・・・。
つまりは、『恋人役』なオミに接する態度として、なにも間違ったものではないと言う事で。
「まぁ、僕の役が人間じゃないからねぇ。案外、気にしないんじゃない?人外の方々って」
子供が出来るって訳でもないし。
・・・なんてさらりと言わないで欲しい。
視線を合わせられなくなって、小さく俯いたオミの髪を、役柄の彼がするように指で透いて撫でてくる。
「・・・今更赤くならなくったって。実際僕たちそういう関係なんだし、気にしないで役に入ってくれればいいよ」
「違う!!それに、こ、こんなの・・・誰が書いたんだ!!」
髪に触れる指から立ち上がることで逃げて、本読みもそのままに部屋を出て行こうと歩き出す。
そう言いたくなるオミの気持ちも分かって欲しい。
が、そこでオミを逃がすほど、セフィリオも甘くない。
「『・・・駄目だ。逃がさないよ。君はここから逃げられない。僕の腕の中で飼われる籠の鳥なのだから』」
「・・・!」
扉に手をかけたオミの視界が突然暗くなる。灯された部屋の明かりに、セフィリオの影がオミの身体を包んだからだ。
少しだけ開きかけた扉は、そのままセフィリオに押されて再びパタンと閉じる。
体重をかけて寄りかかられているせいで、もう一度開こうとしても扉はぴくりともしない。
「『僕の腕の中でだけ、生き続けることを認めよう。僕のためだけに華を咲かす事を認めよう。・・・さぁ、見せてごらん』」
「・・・ちょ・・っ!い、いきなり役に入らないで下さいよ・・・!」
後ろから抱き締めてきた腕から逃れようと身を捩るが、本気で抱き締めてくるセフィリオの力に敵う訳がない。
腰と、胸に回されていた腕がするすると上に登り下に降り、喉元に触れてきた熱い手の平はそのまま細いオミの顎を軽く持ち上げる。
「『何も怖がることはない。僕と一つとなり、君はこの世を永遠に生きる。・・・美しいそのままの姿で』」
耳に唇を寄せられて、熱い吐息と共に吹き込まれる台詞。
演技だと分かっていながら、その言葉に飲まれてしまいそうな不安が脳裏を過ぎる。
「・・・っもう、分かった!分かったから・・・放してって・・・」
そんな不安を拭うようにわざと声を荒げて抵抗した。けれど、セフィリオの演技は止まる事もなく、耳から近い首筋に唇を触れさせて、軽く歯を立てながら囁いた。
「『君がそれを拒むなら、僕は僕を止められない。・・・受け入れるなら、至極の喜びを与えると誓う。・・・さぁ、答えは?』」
薄い皮膚の下に流れる血が、勢いを増して流れていく。
それをセフィリオも触れた唇で感じているようで、一度そう考えてしまうと余計に鼓動が早まった。
それがどうしてなのかはわからない。ただ、恥かしいのか、・・・・それとも何かを期待しているのか。
「・・も、嫌だ・・・」
逃げを許さないセフィリオの拘束に、煽るような声と仕草に、オミは小さい声を上げて顔を背けた。
「・・・・そうそう。何だ、オミもう台詞覚えてるんじゃないか」
と、突然身体を放されて、オミは訳が分からない。
「お、覚えてるって・・・?」
「今のオミの役の台詞だよ。僕に続けて嫌がる台詞。仕草も満点だ。・・・演技じゃなければ、止まれないね」
くすくすと笑うセフィリオの態度に・・・何だか妙に腹が立って・・・・いや、それ以上に力が抜けた。
ぺたりと扉の前に座り込んだオミは、少し熱を持ってしまった頬を隠そうと下を俯く。
「・・・あれ?怒らないの?」
「・・・・・・・・」
怒鳴りたくても、顔が上げられない。
余裕そうな相手にここまで翻弄されてからかわれて、こんな風に反応してしまう自分が恨めしい。
黙り込んでしまったオミにセフィリオは苦笑して、目線を合わせるように地面に膝を付いてしゃがみ込む。
「オミ?・・・ごめん、からかい過ぎたね」
頬に触れたセフィリオの手が、少し冷たくて火照った頬に心地いい。
促されて顔を上げたオミは、自分を映すセフィリオの瞳が、酷く熱いことに今更ながらに気付いた。
「・・・っ」
髪を梳く癖は、セフィリオの演じる役柄の癖でもあるのだけれど、彼自身も良くオミの髪を撫でてくる。
揺れる、鮮やかな蒼い瞳。
見つめ返しているうちに、ふと近くなった顔がオミの視線を塞いだ。
無意識に逃げたオミの後頭部がコツン、と扉に当たる。
頬に添えられていたセフィリオの手は、滑るように顎を固定して、それと気付いた時にはもう唇を奪われていた。
不思議と、抵抗する気は起きない。
それよりも、唇を重ねてくるセフィリオの服に手を添えて、離れないように少しだけ引き寄せてしまう。
激しさは無いけれど、身体に燻った熱を交換し合うような柔らかいキスは、様子を見に来たナナミのノックが扉を叩くまで、暫くやむ事も無かった。



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初めから通しての舞台練習。
細々と区切った場面の合わせは何とか上手く流れたので、本日はこの舞台製作に関わった面々のみでのリハーサルが行われていた。
「・・・実際問題、誰が見るんだよこんな話・・・」
最後まで台本を読みきったオミの感想はそれだった。
練習を繰り返した他の面々に比べて、オミは殆ど最後まで練習に参加出来なかった為か、イマイチこの話の内容に気持ちが追いつかない。
最初はオミが主人公で、ヒロインがニナだとばかり思っていたのだが。
どう考えても、主人公はセフィリオで、ヒロインはオミであるような気がして仕方がない。
そもそも、こんな感情の渦巻く微妙なホラーミステリーを、子供達が楽しめるわけがない。
「まぁ確かに、小さい子供が見るにゃ、濃い話ではあるがな」
苦笑を殺して呟いたのは、同じく舞台に立つことになったフリック。
今回配役に抜擢された人物は、誰も皆容姿と舞台度胸を買われての抜擢だと聞いていたが、あまり乗り気ではない様子からして彼は前者なのだろう。
「でも、『吸血鬼』が全員ネクロードみたいな非道な生き物だと思って欲しくない・・・そういう思いも詰まってるんだと」
それでも意外に協力的な姿勢を見せるのは、彼なりにこの舞台に込められた思いを知っているからだろう。
「・・・吸血鬼」
ティントでの一件で、確かにオミ達は最低最悪な思考を持った敵と戦った。
はっきり言えば、相手はこの戦争と関係のない敵だったけれど、目を瞑っていられるほど猶予がある事体でもなかった。
あの戦いに関係した者は、少なからずとも目の当たりにした吸血鬼の力を怯えている。
人間を糧とする人外の力を持つ生き物を、確かに誰もが恐れていた。
「こんな物語まで作ってのぅ・・・。手間が掛かってもいいが、皆に知って欲しいとこやつが聞かなくてのぅ」
「シエラさん?と・・・ビクトール」
「・・・・まぁな」
このノースウィンドゥを故郷に持つビクトールは、あのネクロードに全てを奪われた犠牲者であった筈だ。
そんな彼にとって吸血鬼とは憎むべき相手である筈なのに。
「こやつの勢いに負けてしもうて、ついつい語る気もなかった昔話を教えてしもうた」
「え?・・・じゃあ、この最初のモノローグって」
「そうなの。全部本当のことなのよ」
ナナミと一緒に、其々の衣装に身を包んだ面々が顔を出してきた。
今回、台本作製班となったのは、宿星の女性陣面々が主らしいが、彼女達も勿論舞台に上がる準備を整えていた。
ニナこそ普段と変わらない衣装に身を包んでいるけれども、その他面々の衣装にオミもさすがに驚いた。
「・・・そんな不思議そうな顔をして・・・変かい?」
「あ、いや、そうじゃないんだけど・・・。うん、みんな似合ってる」
アイリは、オミのその言葉に嬉しそうに微笑んで見せた。
丈の短いふわっとしたスカートに、エプロンドレス。おまけに頭上にはヘッドドレス。
オミにとって、こんな格好は初めて見るもので。確かに驚いたが、似合っているし、可愛いと思う。
姉のリィナは妹とはうって変わって丈の長いロングスカートだが、楚々とした雰囲気が異様に似合っていて違和感がない。
「今回私達はオミ様の敵役ですけれども、私達なりに頑張って見せますわ」
「そうだね。見世物はアイリ達の専売特許だもん。その辺りは安心してるよ」
オミのその言葉に、リィナは美しい礼を返して舞台へと上がっていく。
それも舞台の中での演技なのだと気付いたけれど、違和感のない動作は確かに上手いものだ。
「オミ、あの・・・驚くなよ?」
「え?」
この舞台の配役は、彼等の個性を存分に生かした配役なので、わざわざ演技に頼らずとも自然体で演じる事が出来るよう書かれていた。
それにはオミも助かったが、中には演じなければならない役柄も出てくる。
「姉さん・・・舞台に上がると性格変わるから。悪役なんてやらせたら、好き勝手やるに決まって・・・」
「アイリ。余計な事など話していないで、早く支度なさい」
「・・・・ともかく、驚くなよ」
と、釘を刺されていたのにも関わらず、オミは思いっきり驚いた。
いや、リィナだけではない。オミ以外の面々も、ナナミと言い争うタキ婆ちゃんの演技には度肝を抜かれた。
「・・・み、みんな凄いね」
普段が温和で穏やかな人であるにも関わらず、この変貌ぶりに驚かない訳がない。
「『・・・出来ないの。だから、お婆ちゃんも力を』・・・あ、オミ!今日は練習、参加できるの?!」
「あぁ、うん。まだ読んだだけだから、みんなみたいに上手くできるかは分からないけど」
オミに気付いたナナミが、タキに謝罪を述べてから近付いてくる。
後半しか出番のない彼女は、物語全体を通して語るナレーションの役も引き受けていた。
「セフィリオさんも待ってるよ。それと・・・」
ナナミが濁した名前に、オミも苦笑するしかない。
絶対嫌がるだろうと思っていた彼は、主役がオミに決まった途端渋々ながら参加を了承してくれたらしい。
だが。
「・・・絶対に僕の名前を呼ぶな。そうすれば、手伝ってあげてもいいよ」
そんな条件を突きつけられてしまったせいで、オミは手元の台本からルックの名前を消すハメになった。
「ところでナナミ。・・・なんで本名が役名なの?」
「そんなの簡単よ!覚える手間を少しでも省く為、でしょ?」
にこにこと笑う姉に何か誤魔化されてる気がしないでもないが、オミは仕方なく納得したように頷いた。



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