ニナとの掛け合いやリィナとの会話・・・。流れるように舞台は進む。
セフィリオの登場シーンには冷や冷やしたものだが、意外にも台本どおり進めてくれたおかげで、オミも普段の練習通り演じきる事が出来た。
「・・・『わかりました。では、少しだけ』・・・」
それでも、このシーンで『オミ』を惹き付けなければならない『セフィリオ』の動作は、見ている客をも引き摺り込んでしまう魅力に溢れていた。
彼は、自分が人にどう見られているのか知り尽くしているのだろう。人の視線に怯えることもなければ臆することもなく、自然過ぎる動作で演技を続けていく。
「『良かった。では、早速部屋を用意させよう。ニナ嬢、貴女の部屋も』」
勿論、それを正面から受けたオミも、普段の彼を知っているが故にずるい気がしてならない。
ニナをエスコートする動きもさることながら、オミに向かって流した視線は、ある意味反則だ。
「・・・」
向けられた視線の奥に秘めた想いを投げかけられて、オミは少々複雑な思いで前を歩くニナとセフィリオの後を追った。
「・・・ねぇこの劇って、都市同盟の人たちでやってるって聞いたんだけど」
「そうよねぇ。同盟軍の人なら、演技なんてしなれてない筈なのに、・・・なんだかのめり込んじゃうわ」
役者が舞台袖に引いて一度暗転した隙に、観客席にいた女性達が小さな声で囁きあっていた。
「何て言っても、演技って感じさせないあのリアル感は何よって感じよね!・・・最後の、彼の、見た?」
「うんうん!相手役の子を・・・って、あの可愛い子軍主様らしいけど・・・本当に『愛してる』って眼差しで見つめてたよね・・・!!」
「きゃーv本当にそうだったら素敵なのにねー!!・・・でも、本当にあれが演技だったら凄いわよ!」
頷きあう彼女たちは、セフィリオの正体を知らない。彼を『トランの英雄』だと知っていればもっと大騒ぎになっていただろうが、運良く誰も気付いていないようだ。
その間にも幕は上がり、舞台は止まらずに流れている。
セフィリオ自身が壁となり、死角になって見えないとはいえ、突然のキスシーンに会場は盛大に湧いた。
けれども、そんな会話があちこちで行われているなど知らないオミは、ある意味いい具合に集中して演技を続けていた。
上から落ちてくるアイリの身体を抱き止めて、掴んでいた手すりを軸に軽い反動で階段に腰を落とす。
「『・・・大丈夫?』」
一瞬目が合った瞬間慌てて伏せられた為よく分からなかったが、アイリの頬が真っ赤だったような気がしないでもない。
「・・・?」
確かにここでは『アイリ』が『オミ』に恋するシーンなのだけれども、それにしてはアイリの表情は正に恋する女の子そのものだった。
「『申し訳ありません・・・!あたし、なんてことを』」
それでも続けて台詞が出てくる辺り、オミは只の気にしすぎだと思い直した。
それ以上に、そこまで役になりきっている事に賛辞を覚えて、オミも今までよりももっと気合を入れて役になりきるよう努力することになる。
・・・が、それはそれこれはこれ。
この台本の作製にアイリ達女性陣が一枚噛んでいるのは周知の事実なのだけれども、その奥に込められた深い意味まで知る者は少ない。
今までオミの傍にいて、オミを囲む周囲の面々を眺めてきたナナミが居たからこそ、役者それぞれの本心が詰まった物語が出来たといえよう。
オミとセフィリオがそれとなくそういう関係だということはわかりきっているが、それ以上にオミに好意を寄せる者は多い。
台本を渡して一番嫌な顔をしたのはルックだったけれども、結局は出ることを了承してくれたのだ。
「もーぅ、ルックもアイリも素直じゃないんだから・・・」
今更かき混ぜるつもりもないが、少しくらいは気付いて欲しい。だからこそ、あえて役名を本名のままに決定したのだ。
この舞台を通してオミが何処まで彼らの思いに気付くか・・・。
舞台の袖から弟の演技を眺めつつ、ナナミは小さく笑みを零した。
†----------+----------†
のだけれども。
姉の深い思惑など、所詮セフィリオに勝てるものではないらしい。
物語は進み、最後の大舞台。
燃え盛る城の裏森に背景を移して、オミはセフィリオと見詰め合う。
「・・・『拒まないで。体を楽にしていれば、痛みはない』」
瞳を覗き込まれれば、本当にその蒼い瞳に囚われているような気分になるから、不思議だ。
なんにせよ、セフィリオは相手に自分を意識させる方法を熟知していた。
セフィリオに慣れているはずのオミでさえ、実際後ろの観客を忘れるほどに、彼の演技には無理がない。
それもその筈。普段の彼自身も演技の膜を覆っているのだから、今更輪をかけてネコを被ることなど朝飯前なのかもしれないが。
「『ん』・・・」
誘われるままに瞼を閉じて、首筋にセフィリオの息を感じる。
自然と仰け反るような態勢になるから、オミは倒れそうになる体をセフィリオを抱きしめることで凌いだ。
抱き寄せたと同時に濡れた感触が首筋を伝わって、思わずオミも目を閉じる。
「なんていうか・・・あの二人、なんであんなに自然なの?」
舞台袖でこそこそと見守っていた面々は、色気満点のシリアスシーンに苦笑を零すしかない。
今までの彼らの練習風景はふざけているとしか思えないようなやり取りだったのに、ここ本番に来てとてつもなく濃厚なラブシーンを見せ付けられた感じだ。
オミはオミでセフィリオに引っ張られているだけなのだが、オミはもうこれが演技だとは半分頭から吹き飛んでいた。
離れていく唇を不思議そうに見送って、抱き寄せられるままにセフィリオの胸に崩れ落ちる。
「・・・『御馳走様。痛かった?ごめん、少し貰い過ぎたね』」
続けて台詞を耳元で囁かれても、ぼんやりしたオミは続きの台詞を忘れて大人しくセフィリオの腕に収まっている。
一応ここでは『僕を殺す気ですか?』と皮肉混じりの言葉が入るのだけれども、オミはすっかりその台詞を吹っ飛ばしていた。
人前でこういう素直な態度を見せることが珍しいオミの様子に、セフィリオは小さく笑みを零して、柔らかく腕に包み込む。
「・・・あっれぇ?おかしいな、オミ台詞忘れてるんじゃ・・・」
「でも、あれはあれでありなんじゃない?なんかこう、『お互いがお互いを必要としてる二人』を上手く表現してるというか」
などと、舞台の端でニナとナナミが囁き合う隣で、突如風が巻き起こった。
隣に立っていたのは次の出番待ちをしていたルックであった筈だが。
「・・・ナナミちゃん、もしかして配役間違えた?」
「・・・そうかも」
何となくオミを気にしているようなので、軽い気持ちで渡した台本だったのだけれども、もしかしなくともルックは・・・。
ドォン!!
突如、城自体を揺るがすような爆風が吹き荒れる。
幸い客席にも舞台の上にも被害はないが、ぼんやりしていたオミはふと違う誰かに肩を抱かれて漸く意識をはっきりさせた。
「ル・・・ッ」
言いかけて、睨まれる。
何とか口を噤んで、ここが舞台の上だと言う事を漸く思い出した時には、ルックは明らかに手加減無用の風をセフィリオに向かって放っていた。
「『邪なる者は聖に弱い・・・。君のお婆様が教えてくれたことだ』」
「・・・っ、『違う、彼は・・・!」』」
白熱した演技としてもこれはやり過ぎだ。
止めてくれと、ルックの服の袖を引くが、執拗にセフィリオを追う風は容赦がない。
「『違わない!君も力を解放するんだ。破魔の力を前にして、身体を保っていられるほど彼等も強くない』」
「『嫌だ、止めて、止めるんだ・・・!彼は・・・違う!!』」
それでも、紙一重でかわしつつ、セフィリオはタイミングを見計らって舞台の後ろへと飛び込んだ。
本来ならば、ここでもセフィリオのセリフには続きがあったのだが、言わせてもらう隙などない。
「『守るって!約束したのに!!どうしてこんな!!』」
オミはセフィリオのセリフを待つことを諦めて、演技を続ける。
ルックの背中越しにたくさんの視線を感じて、オミは慌てて俯いた。
先程、ほんの数分とはいえ、オミは完全に舞台であることを忘れていた。
彼と二人きりの時の、飾り立てしていない本来の自分を見せてしまっていた様に思えて、恥かしくて堪らない。
背景用の城が音を立てて崩れ落ちる。座り込んで俯くオミに、ルックの冷静すぎる声が続いた。
「『相手は、化け物だ。・・・人間ではないんだ』」
「『人間じゃなくても、心はあるんだ!それなのにこんな一方的な・・・!』」
「『騙されるな!・・・暗示でもかけられたのか?早く、屋敷に戻って解呪しよう』」
「『そんなものかけられてなんかない!僕は、彼が・・・彼を・・・・』っ・・・?!」
本当なら『好き』だと。『愛してる』のだと。そんなセリフが入ったのだけれども。
ここでもやはり言えずに、オミは小さく言葉を濁してしまう。
それでも、只の演技なのだからと、顔を上げてもう一度言おうとした時、驚くほど近くにルックの顔があって言葉を忘れた。
観客席からは彼自身が影になってキスシーンのように見えるだろう。
こんなシーンあったかなとオミが硬直しているうちに、瞼の上に手を置かれ、小さなルックの声が一言「眠って」と命令した。
「『・・・お休み。怖い夢は、もう終った』」
身体を抱き上げられて、オミは力を抜く。
途端巻き起こった風の力で、オミとルックは舞台の上から姿を消した。
消えた二人に、裏方班は慌てて照明を落とす。
「続けてオミの出番なのに!!何処に行ったのよあの子達はー!!」
「ナナミちゃん音楽!アンネリーたちが間埋めてくれるって言うから、今のうちに捜してきて!!」
「ありがとうニナ!えっと・・・」
捜そうにも、ナナミも続けて出番があるのであまり遠くへは捜しに行けない。辺りを見回して途方に暮れていると、後ろから声が振り降りて来た。
「どうしたの?オミは?」
「セフィリオさん!!」
やはりルックのアレは手加減無用だったようで、大袈裟ではないものの、セフィリオは各所に切り傷を負っていた。
裏方参加のホウアンに応急処置をしてもらったのか、包帯でくるくると巻かれた上に替えの衣装を纏っている最中だったらしい。
「オミもそろそろ着替えないと次間に合わないよね。どこに行ったのかな」
「あぁ、ええと・・・!」
ルックと一緒に居なくなった、などと言ってもいいものか、ナナミは少し悩んだ。
ナナミたちの居た舞台袖から見ても、先程のキスシーンは触れていたような気がしてならない。
ルックがふざけたなどとは思えなくて、やはり、彼もそういう意味でオミに惹かれているという事だろう。その邪魔をしていいものか。
しかし、確かにそろそろ着替え始めないと間に合わない。
元々ここでは背景の入れ替えを考えて大きく時間を取ってはいるが、いつまでも間を開けるわけにもいかなかった。
「セフィリオさん!オミは私が呼んで来ますから、ここで動かないで下さいね!!」
「え?僕も一緒に行くよ?」
「いえいえいえそんな!いいから、ここで・・・」
が、タイミング悪く、衣装班のテンガがナナミに手を振りながら声を上げた。
「ナナミー!オミ、見つかったよー!今着替えてるって〜!」
「・・・え?見つかったの?」
「うん。ドレスの支度してたらね。ルックと一緒に振ってきたの。だから、ナナミはナレーションの準備ね。ほらこっち!」
ずるずると引き摺られながら、ナナミはセフィリオがその場から消えないことを祈っていた。
が、やはり彼の足は止められず、着替える為の小部屋へと向うセフィリオを見送りつつ、無事に続きのシーンが出来るようにと祈りを変えた。
†----------+----------†
突然現れたオミとルックに衣装班は驚いた表情を見せていたが、続けてオミの出番がある為に、そのまま着替えを渡されて閉じ込められてしまった。
同時にルックも続けて出番があるのだ。彼も彼で着替えを渡されて渋々ながら着替えに行く。
「・・・着慣れないなぁ」
適当に袖を通してみたけれど、ドレスの着方など知らないオミだ。これで正しいのか分からない。
着心地は悪くないので変な所はないと思うが、こんな姿など恐ろしくて鏡を見るのは躊躇われた。
「終わったんなら戻るよ。まだ着替え終わってな・・・」
扉が開けられて、着替えを終えて入ってきたルックは暫し言葉を失う。
おかしいところでもあるのかと、オミは首を傾げるが、ルックの視線は一箇所にとまったまま動かない。
「・・・ルック?どこか変かな?」
「それ・・・アイツに付けられたの?」
「え?・・・あぁ・・ッ?!!」
指を指されて、漸く思い出す。舞台が始まった頃はしっかり覚えていたのに、舞台に熱中するあまりすっかり忘れていた。
先程は、血糊やら包帯やらでなんとか誤魔化してきたけれど、最後の最後でこんなに襟首の開いた衣装だとは思わず、今更どうすることも出来ない。
見られてしまった恥かしさとパニックで、オミは赤くなったり蒼くなったりを繰り返していた。
「・・・どうしよう!やっぱり、目立つかな・・?」
「・・・」
純白の衣装に、元々肌の白いオミだ。細い首筋に一点だけ染められた紅の痕は非常に目立った。
言葉を噤むルックの態度に不安を覚えて、仕方なく鏡を覗き込もうと屈む。
オミが自分でその箇所を見る前に、腕を引かれて椅子に腰を落とされた。
「?ルック・・・?」
「消したい?・・・なんなら、消してあげても良いけど」
「え?」
『痕』と言っても、元は只の鬱血だ。皮下の血管が破れて、そこに血溜まりが出来ているだけなのだ。
もう殆ど痛くもないけれど、元は怪我と同じだというならば、回復系の力をも持つルックの風で消すことは可能だろう。
「それとも、このまま舞台に出てみる?・・・明日が楽しみだね」
「それは困る!・・・ごめん、頼んでも、いい?」
「・・・・・・いいよ」
座ったままの姿勢で、オミはルックを見上げる。
続きのシーンは二人の結婚シーンだから、オミが着ているドレスとルックの着ているものはペアで作られていた。
どうやってここまでぴったりなサイズに作ったのかは知らないが、確かにオミにそれはそれはよく似合っている。
首を少しだけ横に倒し、首筋を露にするオミ。
綺麗な首筋は、確かに吸血鬼でなくとも不思議な魅力を感じずにはいられない。
「・・・っ」
少し体温の低いルックの指先が、痕の上に触れる。
瞬間、小さな紋章の魔力が発動したのをオミは感じた。
「オミ!今のは・・・」
「・・・セフィリオ?」
魔力の発動に驚いて飛び込んできた様子だったが、椅子に座ったままだったオミがセフィリオを振り返ったことで、少し勢いは削がれた。
「どうしたの?もう、出番?」
「あ、あぁ。・・・今はナナミのナレーションだ。そろそろ行かないと間に合わないよ」
「本当に?ゆっくり着替えてる時間なんてなかったね。ありがとうルック!後で、また・・・わ」
慌てていたせいか、立ち上がり足を踏み出した途端、オミは思いっきり裾を踏んで体制を崩してしまった。
普段、裾の長い服など着慣れていない所為もあるだろうが、倒れ込んだ拍子に目の前のルックの腕に収まってしまう。
「・・・ごめん。やっぱり、こんなにひらひらしてたんじゃ歩きにくくて・・・」
「いや・・・」
そのままオミの身体を支えようとした腕は、その前に行き場を失ってしまった。
「ありがとうルック。それじゃあ、急ぐからオミ連れて行くよ」
「わ!?お、降ろして下さいって!歩けるから・・・!」
「また転ぶよ?服を汚したらどうしようもないじゃないか。大人しくしてて」
「・・・〜〜!」
セフィリオの腕に抱きかかえられたオミは、そう言われてしまえばもう大人しくしている外にない。
悔し紛れに背中を叩いても、結局は降ろしてもらう事など出来ないだろうから。
「・・・」
歩いていく二人の背中を見送って、ルックは小さな溜息と共にその場から姿を消した。
「遅れてごめんね!大丈夫?」
オミが舞台へと辿り着いたのは、ギリギリナレーションのシーンが終わり、ナナミと会話をする一歩手前だった。
すぐさまセフィリオの腕から降りて、照明の落とされた舞台へ向かおうとした。
「オミ。・・・そういえば、これは?」
だが、引き止められたと同時に首筋を撫でられて、オミは思い出したようにセフィリオを睨む。ルックに見られて恥かしい思いをしたのも、あれもこれも全部セフィリオの所為だ。
「消して貰いました。あぁもう、こんな衣装がある事知ってれば!」
「知ってたよ。だから付けたのに。・・・消してもらったって、ルックに?」
「えぇそうですよ!もう、時間無いんですから!話は後で聞きます。今は舞台に集中して下さいよ!」
パタパタと歩き慣れない様子で走って行くオミ。後ろから眺めつつ、セフィリオは小さな声で呟いた。
「・・・消してもらっただって?他の男に・・・簡単に?」
まだまだ、オミは男心をわかっていない。
こんなに簡単に証を消されて、何のための所有印なのか。
「舞台の後・・・覚えておいで」
誰もその呟きを耳にはしなかったけれども、何も問題はなかった。
彼の決意を知るのは、舞台後のオミ一人きりで充分だろうから。
†----------+----------†
「『・・・・では、オミは貰っていくよ』」
最近妙に仲の悪さを見せ付けてくれる二人のことだから、また舞台の上で一悶着起こるかと内心オミはハラハラしていたが、意外にも無事に舞台自体は終えることが出来た。
最後のシーンでナナミとタキ婆ちゃんのやり取りにはやはりというべきか、観客達の頭からはすっかり今までのラブシーンをも吹っ飛んだようだが、終幕を迎えたジェイド城は暫し興奮冷めやらぬ人々の集まる賑やかなパーティー会場と化していた。
始めはいつもの服に着替えたオミとセフィリオも参加する予定だったのだが、あまりもの『出待ち』の多さに、断念する他なかった。
もし出ていれば、それはそれで大盛り上がりになっただろうが、揉みくちゃにされた挙句、絶対朝まで部屋に戻される事はないだろう。それをセフィリオが許す筈がない。
誘いに来たナナミには、あまり人込みが得意でないオミが断りの言葉を告げる前に、セフィリオがにこやかな微笑み付きで丁重にお断りしていた。
「あーやっぱり疲れてるもんね。オミ、執務のお仕事もあったのに、夜は私達と練習三昧だったし・・・」
「そうそう。だから、オミはもう休ませてあげたいんだ。みんなには、気にせずに騒いでくれて構わないと伝えてくれるかな」
「けど、オミが部屋に戻るなら、見張りの兵士さんたちを呼んで来ないといけないかなぁ?」
こんな日はある意味無礼講だ。それなのに、オミの部屋付きの兵士だけ仕事というのも、確かに可哀相だろう。
しかしやはりここはセフィリオ。自分の腕を軽く叩いて見せて、ナナミに頷く。
「大丈夫。僕が傍に居るから。・・・僕が警護を引き受ける以上、滅多なことは起きないよ」
セフィリオにそう言われてしまえば、ナナミにもう告げる言葉はない。
彼以上の護衛など、この城中どこを捜したとて見つからないのだから。
「・・・はい!オミのことよろしくお願いしますね!」
「打ち上げに参加できなくてごめんって、それも伝えておいてくれる?」
「わかりましたーvじゃあ、おやすみなさい!」
パタン。・・・・カチリ。
ヒラヒラとナナミに手を振っていた時はまだ良いが、扉が閉まった途端きっちりと錠を回す音が部屋の中に響いた。
「・・・相変わらずナナミの前ではネコ被る気なんですね・・・」
「彼女だけじゃないよ。オミ以外の全員の前で、俺は『僕』だからね」
オミはと言えば、舞台の上から攫われたそのまま、人気のないオミ自身の部屋まで運ばれてしまった。
勿論着替えている暇などない。自分の部屋に着いたからには着替えは幾らでもあるが、城の住人が殆ど舞台のある東館に集中していて助かった。
確かに歩き難い衣装ではあるが、横抱きされたまま運ばれて、降ろされた場所が自分のベッドだと思うと気が重い。せめて人に見られていないのが救いというべきか。
「・・・休ませてくれる気なんかない癖に」
ぼそりと小声で呟いただけのオミの声は、それでもセフィリオに届いていたようで、意味までも聞き取れなかった彼はとてつもなく嬉しそうな笑顔を浮べたまま近付いてきた。
「・・・なに?まだ拗ねてるの?」
「拗ねてないですよ。呆れてるんです。・・・何ですか、あの断り方」
明らかに、オミを休ませる気などないセフィリオの吐いた嘘。
今だ純白のドレスを身に纏ったままのオミの隣に腰を降ろして、セフィリオ自身も『彼』のままの仕草でオミの髪を撫でていく。
柔らかい刺激が心地いい。・・・けれども、今夜はきっとこんなものじゃ終らない。
「勿論、オミの期待通り休ませる気なんてないけどね」
「き、期待なんか・・・!」
「してない?・・・相変わらず、オミのココは嘘吐きだね」
「・・・わっ・・・ん・・・!」
唇まで降りてきたセフィリオの指が触れたと思った瞬間、身体を後ろに倒される。
柔らかい感触に埋もれる背中と、上に乗り上げてくるセフィリオの仕草に、全く期待していないと言ったら確かに嘘になるだろう。
けれど、素直になんて言えるわけがない。
「っちょ、いきなり何するんですか・・・?!駄目だってば!服が・・・」
広いベッドの上でセフィリオの身体から逃げようともがくが、コレで逃げ切れた例など一度もなかった。
抗うだけ無駄だと分かっていても、素直に受け入れるなんてそれこそ出来る訳がない。
「舞台は今日で終わりだよ。オミのお願いも期限切れ。・・・だからもう、聞いてあげない」
相手は至極楽しそうに、暴れるオミの身体をシーツに固定してしまう。
武道の寝技でもかけられたかのように縫いとめられた体は、元々力で敵わない以上の何かで身動きを封じられてしまっていた。
布越しとは言え、隙間なく絡められた足にも身体にも、緊張しない方がおかしい。
「・・・も、ふざけないで離して」
「駄目。・・・今度はオミが俺の我侭を聞く番だから。・・・あぁ、でもその前に」
大きく開いたオミの首筋に、セフィリオが顔を埋める。触れた唇は、イタズラっぽく音を立ててキスをした後、本当に牙を突き立てられたような痛みを与えてきた。
「・・・ッっあ!」
「・・・痛い?・・・でも、謝ってあげない」
牙ではないにしろ、確実に歯を立てたそれは、セフィリオの唇が離れた今もズキズキと小さな痛みを訴える。
きっと薄い肌は裂け、小さな傷を作ってしまっているだろう。
「何・・・、怒って・・・?」
「そりゃ怒るよ。・・・俺がオミに刻んだ『証』を、他の男に消されたんだからね。それも、簡単に」
「・・・!」
上から覗き込んでくるセフィリオの蒼い瞳を、オミはただじっと見つめ返す。少しだけ、オミは『オミ』の気持ちを理解出来るような気がした。
感情を映し込んだ瞳は綺麗過ぎて・・・少し怖い。
「今夜は簡単には消せないように・・・身体中に証を刻んであげるから。・・・覚悟して」
「・・っん・・・」
熱い舌が傷付いた首筋を舐める。一瞬痛みが増し、けれどその内に心地良く感じてしまうのは何故だろうと。
オミが嫌がることを躊躇いもなく繰り返すセフィリオの方が悪い筈なのに。そんな風に言われてしまうと、自分が悪かったような気にもなってくる。
そのうちに何時の間にかシーツに押し付ける圧力はなくなり、ベッドに下ろされた時のように縁に座っているような態勢に戻っていた。
オミの正面に屈むセフィリオのキスは、先程と打って変わって甘い。
少しだけ鉄の味がするのは、首筋を流れたオミの血の味。
「・・・吸血鬼」
「・・・?」
「・・・本当の吸血鬼みたい、セフィリオ」
オミの血で唇を赤く染めて。
「・・・なんなら、『お伽話』の続き・・・しようか。二人きりで」
攫われた元継承者と吸血鬼のその後の様に。
契りを交わした後の、初めての夜の様に。
「ん・・・」
純白のドレスに手をかけて、真っ白な肌を赤い花びらで汚して行きながら。
「オミ・・・、愛してるよ」
セフィリオの声が肌に触れる唇を伝って身体中に響く。
その言葉にくすぐったいような、けれども暖かい何かが、身体の中心に染みていくのが伝わった。
「・・・ねぇ、オミは?」
寂しかった彼らは、ずっとこの温かさを求めていたのだろう。
セフィリオも『セフィリオ』も、きっと、愛した人からこの一言が欲しかったのだ。
「ん、僕も・・・愛してる」
+END+
■後書き■
・・・・・・もう疲れたよパ○ラッシュ_| ̄|●・・・(ぇ)や、本気で。(笑)
ハロウィンネタの本編を書く前からこの裏舞台の話は書いてあったというのに!
もの凄くお待たせしてしまいましてごめんなさいでした・・・<(_ _)>
後半疲れてるの見え見えですね!それなのに絡みばかり増えるのは何故。(笑)
お楽しみなアレも途中でブッツリいっちゃってごめんなさ〜ぃいい!!
書き始めるととてつもない時間が掛かるの目に見えてるので触りだけv
勿論彼らは濃い夜を過ごしたと思われます。(笑)
うむむ、語るネタも尽きてるな!(笑)じゃ、〆ます!
こんな裏話まで読んでくださってありがとうございましたv
GS本編ではもうそろそろお別れなセフィオミですが、まだまだコイツらの事愛してあげて下さいなv
2005/11/27 斎藤千夏